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[無辜の守護団]


「まずさ、別に無理して敬語使わなくてもいいぜ?」


「そう聞こえます? 一応年上っぽいから敬語を使おうかと思ったんですけど」


「いいよいいよ、そういうの。気楽に行こうぜ、な」


 サミダレは手をひらひらと振り、人懐こい笑みを浮かべていた。その一見無害そうな素振りが、今のマヤにはかえって怪しく見えてしまう。


「じゃあ、遠慮なく。……まず聞きたいんだけど、どうして私と情報共有をしたいと? 『強欲の帝国(グリード・エンパイア)』に恨みでもあって、代わりに潰してほしいとか? それなら悪いけど、私たちはどっかのクランに積極的に喧嘩を売るつもりはない。トウキョウダンジョンのアレは、仕方ない事情があっただけ」


「いや、そういうんじゃなくてさ。君たち、『厄災の匣』を無害化して助けたんだろ? それに山東キョウカが疑似エネミー化した暴走も止めた。他のプレイヤーと積極的に争うつもりがなく、そして善意があるプレイヤー。そういった人とだけできる話をしたいんだ」


 わずか半日前の出来事であるにも関わらず、その情報のほとんどを得ているサミダレに驚くマヤ。どうやらサミダレのクランは情報収集能力に長けているようで、それなら彼から得られる情報にも期待ができそうだと考える。


「俺の所属するクラン『無辜の守護団』はさ、単刀直入に言えば"プレイヤー保護クラン"なんだ。ゲームに参加したものの、戦いなんてしたくない人。命を狙われ、戦意を失った人。そういうプレイヤーを守るクランだ」


 一瞬だけ『全知(オムニシエント)』を使用したマヤは、サミダレが嘘をついていないことを確認する。今の言葉が本当であるのなら、彼の言うことは信用できる可能性が高い。


「……それに頼るプレイヤーは、少し身勝手じゃない? どんな試練でも乗り越えることを条件に、やりなおしを求めてプレイヤーはこのゲームに参加したはずなのに」


「もう一回死ぬだなんてさ、誰だって怖いだろ? それに、人の決断なんて後悔するのが当然だし。死ぬときには何をしてでも生き返りたい!って思っても、後から考えたらやっぱやめときゃよかった〜、なんて思っちゃうのはおかしいことじゃないと俺は思うんだよな」


 その意見に、マヤはぐうの音も出なかった。実際、彼女もミズハと出会うまではこのゲームに参加したことを後悔していたので何も反論はできない。そんな人にとって、安全を提供してくれるクランは非常にありがたい存在であるだろう。


「でも、それにはあなたたち『無辜の守護団』にメリットないんじゃない? ただの慈善活動のためにこのゲームをやっているワケじゃないでしょう」


「いい着眼点だ。……こっからが取引だ。このシナーズ・ゲームには『裏』がある。その『裏』を暴かなければ、真にプレイヤーがこのゲームをクリアすることはできない。俺たちがプレイヤーを守っているのもその一環さ」


「裏……?」


「そう。このゲームの裏で、なにか陰謀が蠢いている。そして俺たちは、それに対抗するための同志を求めるためにプレイヤー保護をやってるのさ。そんで、取引ってのは、俺たちに協力してほしいってこと。そうしたら、その陰謀に繋がる情報を提供するぞ」


 サミダレの考えをマヤは理解した。彼らは戦力を欲している。ゲームの『裏』という陰謀が真実かどうかはともかく、何らかの目的のために彼らは味方を求めているのだ。

 騙されている可能性もあり、マヤは『全知(オムニシエント)』を使って情報だけを盗み、この場から立ち去ることもできた。だが、そんなことをすれば『無辜の守護団』とは永遠に分かり合えなくなってしまう。協力関係を結べるというのも、戦いを望まないリベルのためになるかもしれない。

 そう考えたマヤは、次の一手を打った。


「……ただの陰謀論者と切り捨てることもできるけど、あなたたちと協力関係を結べるのは大きいかもしれない。だから、私からも1つ要求がある。クラン『天啓の信徒会』のプレイヤー、四宮トリデ。彼について知っている情報を、できる限り教えてほしい」


 マヤは、四宮トリデによってミズハにかけられた呪縛について、彼女の過去も交えて簡単に説明した。話を聞いていたサミダレは、同情したような素振りを見せる。


「……『厄災の匣』については知っていた。複数の異能力(デュナミス)を強制的に発現させられた改造人間だと。でも、そんな酷いことがあったなんて。許せねぇな」


「私は彼女を救いたい。彼女に本当の自由を与えたい。そのためにも、四宮トリデをとっ捕まえて、呪縛を解かせる必要がある」


「ああ、分かった。……四宮トリデは、つい数時間前にフクシマダンジョンで確認されている。『天啓の信徒会』は危険なクランだから、その有力プレイヤーである彼の情報はすぐに共有されてるのさ」


「……えっ。そんなにあっさり、教えてくれてよかったの? 私が情報を得たら逃げてしまうとか、思わなかったの?」


 あっさりと情報をくれたサミダレに、マヤは驚く。だが、サミダレは全然構わないといった面持ちで手をひらひら振った。


「いいんだよ、こんくらいの情報。それに、君がそういう人間じゃないのはなんとなく分かるしな。実際、こうして逃げずにいてくれてるだろ? てなワケで、俺からも要求。協力、してくれるかな?」


「……仲間と話を共有してからにはなるけど、わかった」


「オッケー。実は俺もフクシマダンジョンの先にあるセンダイダンジョンに向かう予定があったし、よかったら君たちと同行させてもらおうかな。いい?」


「構わないけど。そしたら、話はアトラクションを攻略しながらでもいい? 私、このダンジョンクリアしてなくて」


「いいよいいよ。俺もこのダンジョンクリアしてないし。そんじゃ、協力プレイしながら情報共有といきますかー!」


 そう言って、サミダレはとあるアトラクションへと入っていく。彼を追いかけ、マヤもそのアトラクションの入口へと足を踏み入れた。

 ……そのアトラクションの名は、"大絶叫ジェットコースター"。

[シナーズ・ゲーム TIPS]


『無辜の守護団』︰戦闘を望まない者や戦意を喪失したプレイヤーを保護することが目的のクラン。シナーズ・ゲームの怪しい点を暴くために行動している。プレイヤーとの戦闘やクランどうしの抗争に関わることはなく、積極的に戦闘を仕掛けることはないが、その構成メンバーには実力者が粒ぞろいである。

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