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シナー・ヒーロー 〜異世界人の異能力バトルゲーム挑戦記〜  作者: 芒種雨
[序章 トウキョウ編 Welcome to Sinners Game]
2/55

[夢のつづきを]


「……大丈夫?」


 エネミー落とし穴にハマってから、六日目。声を上げるのにも疲れて眠っていたオレが目を覚ますと、そこには屈み込んでオレの顔を覗き込んでいる一人の少女がいた。


「だいじょばないかも。申し訳ないんだけど、助けてくれないかな?」


「いいよ。これは……"デスワーム・エネミー"か。それも擬態捕食型。ちょっと待っててね」


 その少女は、目元にある傷跡が特徴的な、肩くらいまで黒い髪を伸ばした女性だった。大人っぽさと幼さが入り混じったような印象から、成人したてくらいの年齢なのだろうかと思わされる。プレイヤーの体力ゲージである『残る命の火(ライフメーター)』の色は、水色だ。


「よいしょと」


 彼女は、落とし穴にハマっているオレの周囲に何かを設置しているようだった。かと思えば、今度は彼女はオレから急に距離を取る。いったい何をしているのだろうか?


「爆弾設置完了。それじゃー、()()するねー」


「えっ」


 ……ん?

 何か、妙な言葉が聞こえたような。『爆弾』? 『起爆』?

 


「ギャァーーーーー!!!!」


 突然の大爆発。どっかんと吹き上がる爆炎、爆風にオレの身体はぶっ飛ばされる。


「よし。デスワーム・エネミーは衝撃に弱いから、これでよし。赤髪の人、生きてる?」


「な、なんとかネ…………」


 轢かれたカエルのように道路にひっくり返って転がっているオレの顔を覗き込み、少女は安否を尋ねた。





「へえ、名前、リベルさんって言うんだ。 外国の人なんだね。髪が赤いし、眼も青いからそうなのかなー、とは薄々思っていたけど」


「ああ。オレはリベル・ルドベキア。改めてありがとう。君、名前はなんて言うんだ?」


「私? 私は岸灘(キシナダ)マヤ。見ての通り、日本人だよ」


 そう言って、少女――マヤは手頃な瓦礫に腰を下ろした。彼女の目線はオレの髪に向けられている。赤い髪がそんなに珍しいのだろうか? 正直、今のオレの髪はボサボサで人前に出るような格好じゃないからあまり見てほしくない。……いや、それを言えば、服装もちゃんとした格好じゃなく、めちゃくちゃ部屋着みたいな服なんだよなぁ。散歩中に落とし穴にハマったせいだ。最悪。


「えーと、マヤ。改めて、助けてくれてありがとう。お礼がしたいな。できることなら何でもするけど、何か頼みはない?」


 彼女はオレの命の恩人だ(もう一度死んでるけど)。だからその恩を返したいと思い、彼女に提案をした。

 だが、思いもしないことをマヤは訊き返してきた。

 

「それじゃ、1つ訊きたいことがあるんだけど。ねえ、『払暁の勇者』って知ってる?」


「………………」


「このシナーズ・ゲームには、主に日本で死んだ人がプレイヤーとなってやってくる。だけど、たまに外国、はたまた過去、そしてなんと異世界からやってくるプレイヤーがいるんだって。そして、この辺には異世界からやってきた『勇者』がいるって噂があるんだよ。知ってた?」


「そんな噂が……。……君は、その『勇者』に会いたいのか?」


「まあね。勇者ってさ、ほら。正義の味方、ヒーローでしょ? それなら、私のことを助けてくれるのかなー、って」


「?」


 そのマヤの言い方は、『勇者』に助けてほしいことでもあるかのような言葉だった。それなら、オレに頼めばいいのに。 


「なんだ、何か助けてほしいこともあるのか? それなら、オレに頼んでもいいんだよ」


「…………いや、でもそれは――――」


 マヤは顔をしかめ、困ったような表情を見せた。

 

 そして、彼女が言葉の続きを口にする前に、突如として異変が発生する。

 


「…………っ!?」


 突然、オレたちの周りへと急接近してくる存在が多数。それらは一気にオレたちを取り囲み、こちらを睨みつけている。


「"コカトリス・エネミー"!」


 マヤの表情が真っ青になる。

 オレたちを取り囲むエネミーたちは、ヘビとニワトリが混ざったような姿をしていた。どこか、いわゆる恐竜の姿にも似ている。大きくはないが、戦闘能力は高そうだ。


「よぉ、岸灘マヤ。地上に出て、花火でも遊んでたのかよ? おかげであっさりテメェを見つけられたぜ。慎重なテメェらしくねぇな」


中臣(ナカトミ)タカイチ……!」


 ぎりり、と歯をきしませたマヤの視線の先にいたのは、あるコカトリス・エネミーの上に乗っている金髪の男だった。タカイチ、と呼ばれたその男は、オレの方へと視線を向ける。


「ん、マヤの隣にいる男は誰だよ。おいそこのテメェ、ダンジョンはいくつ攻略した?」


「ゼロだ。このトウキョウダンジョンにいるのなら、お前もそうだろ?」


「はっ、なんだよテメェ、ゲーム初心者かよ。オレが、トウキョウダンジョンに拠点を置く最強の『クラン』、『強欲の帝国(グリード・エンパイア)』のメンバーって知らないのかぁ?」


 ……クラン。

 それは、協力関係を結んだプレイヤーどうしの組織のことだ。ダンジョン攻略の情報を共有したり、エネミーや敵対プレイヤーを協力して撃破する。

 中でも『強欲の帝国(グリード・エンパイア)』はゲーム有数の強大なクランだ。オレでもその名を知っているのだ、相当強力なクランであることに間違いはない。しかし、こんな小物臭いヤツがメンバーにいるとは思わなかったけど。


「おい、マヤ。テメェが逃げようとしたなら、この男の命はない。そしてそこの男、妙な真似をするなよ? おとなしくしていれば、この女を捕らえた後に解放してやるからよ。雑魚に用はねぇからな」


 くるる、と鳴き声を発しながら1頭のコカトリス・エネミーが背後に近付いてくる。少しでも変な真似をしようものなら、一撃でやられる範囲内だ。


「なあ、タカイチ。一つ訊いていいか? どうして君はエネミーを従えている? エネミーはプレイヤーに敵対的なものだと思っていたんだけど」


「はっ。知らねぇのか。オレたちクランのリーダーは、エネミーを支配する『異能力(デュナミス)』を使えるんだよ」


 ……『異能力(デュナミス)』。

 それは、一部のプレイヤーだけが使える、特殊な力のことだ。なんでも、常識ではありえない、現実離れした力を使えるらしい。まだオレは見たことがなかったけど、これがその力の片鱗なのか。


「んなことはどうでもいい! それより、マヤぁ! テメェ、『厄災の匣』をどこへ隠した?」


「言えるもんか。()()()はお前たちには渡さない。危険になんて晒すものか」


 タカイチを精いっぱい睨みながら、マヤは言葉を吐き捨てた。二人の話の内容が分からないので、オレは黙って事態を静観する。


「そうかよ。じゃあ、拷問の時間だな」


 タカイチは、拳銃を素早く取り出し、そしてマヤの膝に目がけて発砲した。凄まじい早撃ち、そして命中精度だ。的確に足を撃ち抜かれたマヤは、悲鳴を上げて崩れ落ちる。


「ぐうううっ…………!」


 マヤの『残る命の火(ライフメーター)』が揺らぐ。肉体が損傷することはないが、痛覚は健在だ。凄まじい激痛が彼女を襲っていることだろう。


「何へばってやがる。立てよ」


「うあぁ……ッ!」


 両脇にいたコカトリス・エネミーが舌を伸ばし、マヤの腕を掴んで持ち上げる。無理やり立たされたマヤの目の前へ、タカイチが歩み寄る。


「何度だって撃つし、何度だって殴ってやる。テメェがあの『厄災の匣』の情報を吐くまでな。よかったな、岸灘。オレは年下に趣味はねぇ。ヤラしい拷問はしねぇから、安心してくれ、よッ!」


 がぁっ、とマヤの頬が殴打される。それでも、マヤの表情は変わらない。

 

「言う、ものか……あの娘は、私を信頼して、頼ってくれたんだから……。だから、わたし、は――」


「テメェ……!!」


 タカイチが再び拳を振り上げる。

 だが、その前に。


「そこまでしときなよ、タカイチ」


「……ああ?」


 口を挟んだオレを睨みつけるタカイチ。それでもオレが言うことは変わらない。


「オレは君たちの事情は知らない。けど、これじゃあ悪者はどう見ても君だよ、タカイチ。それにオレはマヤに恩があるんだ。それ以上暴力を振るうようなら、オレが相手になる」


「…………は? ……ぷ、く、くく、あははハハハ!」


 ぽかん、とした表情を浮かべていたタカイチだったが、すぐに大爆笑し始めた。かと思えば、青筋を立てる。


「ふざけんなよカスがぁ! ゲーム初心者がイキるんじゃねえ! 人を殺したことあんのかよ? ボサボサ頭にヨレヨレ服のクソダサ野郎が、調子乗ってんじゃねぇ!! 俺を誰だと思ってやがる!」


 口汚い暴言を浴びせたかと思えば、タカイチは拳銃をこちらに向けた。それが返答だと解釈し、オレは戦闘態勢へと移行する。


 

「……分かった。じゃあ、ここからは――――()()()()()()()()


 

「……えっ!?」



 魔力心臓(マジックハート)、起動。

 魔力血管(マジックベッセル)、躍動。

 魔力で組み上げた鎧を装着し、召喚した相棒の大剣・宝魔剣ヴァイスを手にする。くしゃくしゃの髪の毛が、あふれ出した魔力の奔流で揃えられる。


 ここまで、1秒もかからず。

 タカイチが放った銃弾を弾き返して彼が乗るコカトリス・エネミーを撃破しつつ、背後にいたエネミーの首を斬り落とす。


「ぐあっ!? は、は? な、なにが――」


 突然地べたに落下し、何が起こったのか理解できていないタカイチ。そんな彼の喉元に、オレは剣先を向ける。


「ここから立ち去れ。そうすれば、命は取らない。人は殺したくないからね」


「っ、ざけんな……! おい、エネミーども! 早くこいつを殺れ……!」


「無理だよ。全部殺したから」


 だいたい10匹くらいだったか。コカトリス・エネミーは力こそ強いが、防御力はあまりなかった。首を斬ればあっさりくたばってくれたので、幸運だったな。


「リベル、あなたは――」


「そう。実は、オレこそが異世界からやってきた勇者なのでした。でもね、マヤ。啖呵を切ったさっきの君は、まるで勇者みたいだったよ」


 オレは心からの賛辞を彼女に送る。彼女のあの姿を見たからこそ、オレはマヤを助ける決心をつけたのだ。

[シナーズ・ゲーム TIPS]


『クラン』︰プレイヤーが協力関係を結んで結成した組織。ダンジョンの情報共有や、エネミーや敵対プレイヤーなどに対する共闘などを行う。プレイヤーたちのほとんどはどこかのクランに属しおり、今やシナーズ・ゲームはクランどうしの戦争と言っても過言ではない状況になっている。中でも、プレイヤーが最初にやってくるトウキョウダンジョンに拠点を置くクラン『強欲の帝国(グリード・エンパイア)』はその規模と戦力が他の追随を許さない、最大勢力のクランである。

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