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シナー・ヒーロー 〜異世界人の異能力バトルゲーム挑戦記〜  作者: 芒種雨
[序章 トウキョウ編 Welcome to Sinners Game]
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[列車脱出ミニゲーム・2]


「どれどれ。次のお題は、『車両右側と左側の違いを3つ探せ』か。いわゆる間違い探しだね。こういうゲームをプレイしたことがあるよ。そう、はち――」


「時間がないし、早く探そう」


 次の車両の案内表示に映された文字を読み、オレたちはきょろきょろと周囲を見回す。そして早速、1つ目の違いを見つけた。


「このつり革、星型になっているね。反対側は三角だし、これが1つ目の間違いだ」


「なるほど。よし、オレも探すぞ! ……む、この座席、シートベルトが付いてる! これは違いだよね?」


 一瞬で2つも違いを見つけてしまった。残る違いは1つだし、この調子ならすぐに見つけられそうだ。時間もあるし、余裕でこの車両のお題は突破できそうだな。


 

 

 ……などという期待はあっさり打ち破られ。

 2分が経過した。


「どこ!?」


「や、やばいよ勇者君! あと30秒しかない! ええと、シートベルトは言ったっけ?」


「それはもう見つけた! ああもう、どこなんだよ!」


「あと1つの違いが見つからない。間違い探しあるあるだね」


 冷静に言ってる場合か、とチョウノにツッコミを入れたくなるが、そんなことをしている時間はない。横目で後方をちらりと見ると、ワームドラゴン・エネミーが寸前に迫ってきているのが確認できた。早く、早く見つけないと、と焦りが止まらないそのとき。


「ああ、いっそのこと窓ガラスを破って次の車両に向かうのはどうかな。もちろん、勇者君が僕を背負ってへばりついて、ね。って、……うわぁぁぁぁ!?」


「ど、どうしたチョウノ!?」


 突然悲鳴を上げたチョウノは尻もちをつき、震えながら窓ガラスの先を指差していた。


「お、おばけ……!」

 

「コンニチワ」


 そこには、白い衣装をまとった女性が宙に浮かんでいた。どうやら、これが最後の違いみたいだ。


「……なんで気付かなかったかなぁ。いや、電車の外にいるっていうのが盲点だったのかも。お、扉開いた。チョウノ、行こう」


「こ、腰が抜けた……。勇者君、背負ってくれぇ」


「大丈夫か……?」


 涙目になって動けなくなったチョウノを引きずり、オレは次の車両へと移動する。




  

 次の車両のお題は、『眼鏡が日本に伝来したのはいつでしょう?』というものだ。……あ。これは――。


「眼鏡が日本に伝来したのは戦国時代だね宣教師のフランシスコ・ザビエルが現在の山口県の戦国武将だった大内義隆に献上したのが最初と言われているよああなんて眼鏡は素晴らしいんだろうか凛々しさと愛しさが倍増する完全なる道具だうん勘違いしないでほしいが眼鏡を外すことに対して僕はそこまで怒りは抱かないタイプでねいわゆる女騎士の鎧と同じものだと僕は考えているんだよ着脱したからこそ見える魅力というのもあるだろう」


「おお」


 勢いよく立ち上がると、息継ぎ一つなくチョウノは喋り続ける。まるで呪文の高速詠唱だ、と俺は感心した。まあでも、驚いていたところからすっかり元気になってくれたようでよかった。次の車両へ向かおう。


 


  

 その次の車両には、いくつかの駒が置かれた台が置かれていた。それを一目見るなり、ほう、とチョウノが声を漏らす。


「これは"詰将棋"か」


「ツメショーギ?」


「この世界にあるボードゲームだよ。ふふ、勇者君。ここは僕に任せてくれないか?」


 自信ありげに台の前に座り、鮮やかな手さばきで駒を動かすチョウノ。息をつく暇もなく、すぐに扉が開くこととなった。


「――王手。終わりだ。さあ、次へ行こうか」


「すごいな、チョウノ! こんなに早く突破するなんて!」


「ふふ、まあね。頭脳労働ならこの僕に任せてくれたまえ」


 ドヤ顔で胸を張るチョウノ。彼女のその気分の浮き沈みの激しさにオレはやや振り回されるが、しかしその頭脳にはとても助けられている。不思議な人だが、頼りになる人だ。




 ……と、オレは彼女を評価していたのだが。

 次の車両では、チョウノはあるやらかしを犯してしまった。 


「さて、次のお題だ。ふむ、『しりとりを10回続けろ』か。勇者君、しりとりは分かるかい?」


「わかるよ」


「それじゃあ、『り』からだ。『りゅう』! ドラゴンのことさ。って――うん?」



「ウオオオオオ!!!」


 この車内の特性である『発言内容が現実になることあり』のルールが適用され、とぐろを巻いた中型のドラゴンが突然出現した。その細長い体で暴れ回るせいで、車両が今にも壊れそうになってしまう。


「……おっと、これはマズいな。さっさとお題を達成してこの車両を脱出しよう。う――『うしろ』!」


 物体ではない、実体が存在しない言葉であれば、出現することはないとオレは考えた。そしてそのとおり、『うしろ』に該当する存在が出現することはなかったのだが。


「ろ、ろ、ろ――『ロボット』! ……あ、え?」


「おいチョウノぉぉぉ!!!」


 体中に兵器が取り付けられた、鉄でできた人型の怪物が出現する。その『ロボット』が爆弾を放ち、『りゅう』が炎を吐く地獄絵図となった車両。このままだとこの車両が破壊され、車外に投げ出されたオレたちは迫りくるワームドラゴン・エネミーの口に収まることになってしまう。


「ごめん勇者くぅぅん! た、助けてくれぇぇ! ロボットって言ったらこう、かっこいいヤツが出てくると思ってたんだよぉぉ」


 戦闘能力がないチョウノは、割れて散乱した窓ガラスと噴き上がる炎に苦しめられながら必死に謝罪している。……まあ、やってしまったことは仕方ない。ここまでチョウノのおかげで進んでこれたのだし、ここはオレが一肌脱ぐ番だ。


「……わかった。チョウノ、あともうしばらく――数十秒の間、耐えてくれ」


「ゆ、勇者君? なにを――」


「今だ、捕まれ! しっかりオレの身体を掴んでてよ!」


 チョウノの身体を抱きかかえ、外れていたドアから車外へ飛び出す。その瞬間、車内の案内表示はちょうど『次の駅まであと0秒』になっていたはずだ。


 当然ながら、目的地ではないこの駅に電車は止まらずに通過していく。しかし、駅のホームという広い空間に出られた、ということがポイントだった。

 間違い探しのときにチョウノが呟いていた、窓から車外に出て先へ向かう、という提案。それがヒントになり、オレはこの行動を実行に移した。

 

「翔けろ――『神速魔導マヘル・イダテン・シュネル』」

 

 高速移動の魔術で全身を強化したことで、電車がその駅を通過するよりも速く、オレの肉体は瞬間的に跳躍した。スーパーボールのようにホームの椅子を蹴り、オレの身体はさっきまでいた車両の、さらに2つ先の車両へと向かう。ワームドラゴン・エネミーに追いつかれて噛み砕かれている車両を尻目に、ドアを蹴破り勢いよく飛び込んだ。


 


「ふう。ギリギリだった。1つ車両を飛ばしちゃったけど、大丈夫かな。ねえ、チョウノ?」


 オレは1つ車両を飛ばしてしまった。これがルール違反になるのではないかと不安になりチョウノに尋ねたのだが、しかしチョウノは思いがけないモノを見てしまったかのように、放心状態になっていた。


「…………え? あ、ああ。別に、全ての車両のお題を達成する必要はないからね。ただ、そうしなければ普通は先に行けないというだけで。うん、大丈夫だよ、うん」


「そ、そうか。ならよかった」


 チョウノは頭を振り、そして立ち上がる。だが、彼女にさっきまでの元気のよさはなく、なんだかぼんやりした表情になっていた。高速移動による重力の負荷のせいか、それとも自分の失敗を反省しているのだろうか。

 


 ともあれ、辿り着いた最後の車両。

 そのお題の内容は、『存在するエネミーを5体答えろ』というものだった。


「……さっきので分かってると思うけど、これ絶対、答えたエネミーが出現するヤツだよね」


「そう推察するのが妥当だろうね。ふむ、勇者君。君が絶対に戦いたくないエネミーはいるかい?」


「デスワー……ご、ごほん! あのニョロニョロした丸呑みしてくるヤツはやめてほしい。あとは何でも」


 危ない危ない。デスワーム・エネミーの名前を口にしてしまうところだった。アイツに下半身を呑まれ、そしてこの地下迷宮で落とし穴に落ちるきっかけにさせられてから、アイツには苦手意識ができてしまったからね。


「了解した。それでは――"コカトリス・エネミー"、"グール・エネミー"、"ヒトダマ・エネミー"、"ヒトツメ・エネミー"、"オニ・エネミー"、と」


 チョウノが回答した直後、5体のエネミーが出現する。お馴染みのコカトリスと、そして黒い異形の怪物、人の顔が浮かんだ火の玉、1つ目の怪人、そしてツノが生えた赤肌の怪人だ。


「あまり強くないのを選ばせてもらったよ。……おっと、どうやらこのエネミー全員を倒さなければ最後の車両に進めないようだ。頼むよ、勇者君」


「任せろ!」


 まず、知能が高いコカトリスを狙う。確実に殺すため、首に一撃を加え、斬り落とす。その隙を狙って襲ってきたオニが振り下ろした棍棒をかわし、魔力を充填した。


「荒れ狂え――『暴風魔導ランペイジシュトゥルム』!」


 突風に煽られ、よろめくオニ。そこへ追い打ちとばかりに回し蹴りを与え、その巨体をドアごと車両の外へ突き飛ばした。


「あと3体!」


 グールは動きが鈍く、後回しにできる。となれば、あとはヒトツメとヒトダマだ。ヒトツメはチョウノを狙い、今にも襲いかかろうとしている。


「――っ!」


「そこ、何してる!」


 空中をふよふよと浮かんでいたヒトダマを蹴り飛ばし、ヒトツメに直撃させる。彼らがよろけている間にグールを一刀両断し、そして残る2体のエネミーにもトドメを刺した。

 剣に付着したよく分からない黒い液体を拭き取り、息を整える。そんなオレの様子を見ていたチョウノは拍手をし、感嘆の声をあげた。


「……すごいな。5体のエネミーを一瞬で片付けるだなんて。君の強さを話には聞いていたけど、こうも鮮やかとは」


「お褒めいただき光栄だよ。それじゃ、先頭車両に行こう」


 無事に先頭車両に到着し、あとはシンジュクエキに辿り着くだけとなった。シンジュクエキに到着したら、上層へと上がっていきミズハを助ける。その道中、『強欲の帝国(グリード・エンパイア)』は様々な方法で妨害を仕掛けてくるだろう。だが、それら全てを突破しなくてはならない。

 そうだ。ここからが本番なのだ。

[シナーズ・ゲーム TIPS]


【デスワーム・エネミー】危険度クラス︰D

 トウキョウダンジョンに出現する、ヘビまたはウナギのような姿のエネミー。人を丸呑みできるほどに大きく、地面や壁に埋まって獲物が通るのを待ち、捕獲した獲物を数日かけて消化する擬態型のエネミー。戦闘能力は飛び跳ねることくらいしか能がないため、先に見つけてしまいさえすれば退治は容易。消化液は非常に強力であり、普通のプレイヤーであれば2日ほどでゲームオーバーになっているが、リベルは魔術により下半身に結界を張っていたため6日間生き延びることができた。

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