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シナー・ヒーロー 〜異世界人の異能力バトルゲーム挑戦記〜  作者: 芒種雨
[序章 トウキョウ編 Welcome to Sinners Game]
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[列車脱出ミニゲーム・1]


「僕は君に興味を抱いた。異世界からやってきた勇者であるという、君に。そんな君に1つ、訊きたいことがある」


 チョウノは不敵な表情を浮かべ、こちらの目をじっと見つめながら言った。オレは、得体の知れないモノを相手にしているかのような感覚に襲われる。


「『厄災の匣』は危険な存在だ。己の意志とは関係なく、目の前にいるプレイヤーを殺す。かつて『百済ミズハ』だった少女はどこにもいない。今の彼女の人格も、泡沫のように生まれ、そしていずれは消えるかもしれないものだ」


「……よく知ってるな」


「まあね。つまりは、あの少女はただの兵器にすぎないんだ。操り人形にされた死体でしかない。それでも救う価値があるのだと、勇者君は思うのかい?」


 淡々と、まるでオレを試すかのようにチョウノは尋ねてきた。けれど、オレの答えは決まっている。


「あるよ。そんな彼女に、生きていてほしいと願う人がいるからね」


「ほう? でもそれはごく一部の人間だろう? 大勢の人間を危機に晒してでも、少数の人間のために君は行動するのかい?」


「責任は取るよ。それでも、そうしたいとオレ自身が願ったからね。オレの行動原理なんてその程度さ。やりたいと思ったから、やる。オレは頑固なんだ」


 ふむ、と笑みを浮かべたままチョウノは顎に手を当てる。そして頷き、オレの肩にポンと手を乗せた。


「面白い。ふふ、君がどう言おうと、僕は君の力になるよ。さあ、付いてきたまえ」


 チョウノはすたすたと進んで、停車した電車の扉の前に立った。ぽかんとしているオレに、手をひらひらと振って呼びかけてくる。


「ここは地下迷宮の中でも最下層に近い空間だ。迷いやすく、『強欲の帝国(グリード・エンパイア)』の連中もリスクを犯して仕掛けてはこないだろう。なら、無理に上層へと上っていくよりかは、この階層を移動して目的地の真下へと向かうほうが得策だと僕は考える」


「ま、待ってくれ! チョウノ、君は本当にこの地下迷宮を案内してくれるのか!?」


「君と同じだとも。僕は、君に力を貸したくなったのさ。助けてもらった恩もあるし、それに君は僕の"推し"になったからね」


「……オシ? なにそれ?」


「さあ乗りたまえ。この地下鉄は一方通行、必ずシンジュクエリアへと到着する。ただし、"正しい列車"に乗れれば、の話だけどね」


 電車へと乗り込み、喋り続けるチョウノ。扉が閉まる前に、オレも慌てて乗車する。


「君もあの電光掲示板を見ただろう? 『鬼から逃げよ 裏は安全』。日本には、"鬼門"という言葉があってね。文字通り、鬼が出入りするとされた方角のことさ。そして、その方角の反対方向を"裏鬼門"という。両方とも忌むべき方角だが、この空間においては『裏は安全』だそうだ」


「そうか。それで、『鬼から逃げよ』だから――」


「ああ。鬼門である北東の方角から来る電車に乗り込めば、それは実は擬態したエネミー。腹の中におめおめと入ったプレイヤーはドロドロに溶かされて食われてゲームオーバーだ」


 ぞっとするな。もし何も知らずに間違った電車に乗ってしまったら、と思うと気分が悪くなる。


「ナビのマップに方角は表記してあるからね。知識さえあれば簡単な問題さ」


 ふっ、と得意げに笑うチョウノ。彼女の頭の回転の速さにオレは感心する。どうやらただの変人ではないようだ。


「とはいえ、ここからが本番だ。後方の様子を見てみたまえ」


 くい、と親指を指し示すチョウノ。彼の言われるまま、指差された方向を見てみる。


「……へ? な、なんだアレ!?」


 まず、不思議なことにオレたちは最後尾の列車に乗っていた。真ん中くらいの列車に乗り込んだはずなのに、だ。

 しかも、車掌室の窓から見える列車の後方には、不気味で巨大な怪物がどたどたと暴走しながらこちらに迫ってくる様子が確認できた。


「アレはワームドラゴン・エネミー。じきに列車に追いつき、車両を1つずつ破壊していく。ああ、倒そうとは思わないほうがいい。アレは頑丈すぎるし、妙な真似をするとこの地下空間が崩落する。ここはおとなしく、"ルール"に従ったほうがいい」


「ルール?」


 チョウノは座席にポンと置いてあった冊子を手に取り、それを指差す。ルールブック、とその冊子の表紙には書いてあった。


「ここにルールブックがある。これから僕たちが挑む『列車脱出ミニゲーム』のね。一度挑戦したことがあるこの僕が概要をかいつまんで説明しよう。まず、あの駅から目的地であるシンジュクエキまで、通過する駅は7つ。1つ駅を通過するたび、1つの車両が破壊されると考えてほしい」


「この電車は何両編成なんだ?」


「8両さ。そして、強制的に最後尾の車両に乗せられた僕たちは、前方車両へと移動しなければならないんだが……。ここで1つ問題がある。前方車両へ向かうためには、『お題』を達成しなければならない」


 チョウノは車内の案内表示を指差す。そこには、2つの文言が映し出されていた。

 1つは、『次の駅まで残り211秒』という文字。残り時間は少しずつ減少していて、タイムリミットを表示しているようだった。

 もう1つは、『お題︰駄洒落を言え』というもの。あと、『発言内容が現実になることあり』とも表示されている。


「制限時間内に、お題を達成する。そうすれば、次の車両へと進める。このゲームのルール、理解してくれたかな? さて、まずは『駄洒落を言え』、か。簡単だね。『チーターが落っこちーたー』とでも言っておこうか」


「なあチョウノ。この『発言内容が現実になることあり』っていうのは――」


 オレが質問し終えるよりも前に、列車の天井を突き破り、黄色っぽいような茶色っぽいような、何か動くモノが落ちてきた。それは二足歩行の、やや大きなネコのような動物だった。


「あ。やば。チーター出てきちゃった。ウカツ!」


「グルルッ!」


「チョウノぉ!?」


 現れたその動物が襲い掛かってきたので、咄嗟に剣でその攻撃を受け止める。どうやら、チョウノが言った言葉が現実となり、この動物が出てきたみたいだ。……何をうっかりやってるんだこのチョウノは。


「ひえぇっ! も、申しワケないが今の僕は戦闘力皆無なんだよ! 戦闘は頼むよ勇者くぅぅん」


「……しっかりしてくれよ」


 次の車両へ続く扉が開いたため、隙を見て移動する。車両を移動した後、チーターは霞のように消えてしまった。どうやら幻影のようなものだったらしい。

 不安がつきまとうが、今はチョウノを信頼するしかない。あと6つ、お題を突破してこのミニゲームをクリアしなければ。

[シナーズ・ゲーム TIPS]


【ワームドラゴン・エネミー】危険度クラス︰B

 トウキョウダンジョンにある地下迷宮の深層に出没する、巨大な蛇のようなエネミー。デスワーム・エネミーを巨大化させたような外見であり、ドラゴンのような特徴も見られる。あまりに巨大なため、討伐は事実上不可能であり、遭遇してしまったなら逃げるしかない。

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