[9]22:00
帰りたくない。
そりゃそうよね。
折角の素敵な時間。ここをチャンスにしない手はないもの。
気が付けば、随分と時間が過ぎていた。
こんなに楽しいと、夜が更けるのもあっという間だ。
京都とはいえ、市街地からは大きく離れた片田舎の町。元々まばらな明かりも、こんな時間にもなれば少しずつ消え始めていく。
成史が気遣って言ってくれているのは分かっている。
だけど帰宅したくない。
由莉奈はその理由を取り繕い、頭の中から絞り出すように呟いた。
「い、今ね、家のガスが出ないの…」
「ええっ!? そりゃ大変だ」
「でしょ? だから帰っても…ね」
胸騒ぎがする。成史は、目を見開いて由莉奈の心情を探るべく見つめた。
何故ガスが?
彼女はもしかしたら、人に言えない程の苦しい生活を強いられているのだろうか。
しかし、理由を聞くのも憚れる。思い過ごしなら、かえって由莉奈を傷付けてしまう。
ここはもう少し落ち着いて、本人の意思で語るのを待つのが正解かもしれない。
―何故ガスが?
成史は心配気に由莉奈を見つめる。
―だって、オール電化だもの。
兎に角ガスが出ない事を理由にして、由莉奈はここで一夜を明かしたいと言う。
成史と2人で。
週末にしか来ない。いや、週末毎にここに来ているのは、もしかしたら今だけの事かもしれない。
成史の仕事が軌道に乗れば、きっとこんな田舎でのんびりする時間なんて持てなくなるだろう。
だからこそ、今、傍に居たい。
そして彼と深くなって、いずれは大阪で共に暮らし…
いやいや、それは飛躍しすぎ。妄想は妄想として心の片隅に置いておいて。
町が闇に落ち、静けさと星明かりが2人を包み込む。
夜が深くなればなる程、恋心は揺さぶられる。
近い将来への妄想だけが独り歩きし、どんどん膨らむ。
「ねぇ、ナリ…」
それは聞いていい話なのだろうか?
その想いだけが空回りしているのであれば、真実を知ったその時の傷はより深くなるかもしれない。
だけど、踏み出さなければ何も始まらない。
しかしその一方で、踏み出せば全てを失う場合もある事を、由莉奈は知っている。
今の成史の表情を窺う限り、恋は愛へと発展していきそうだ。なのに大どんでん返しが怖くて想いを封じ込めてしまう自分がそこに居る。
勇気…ってやつなのかな? その“勇気”なるものを振り絞ったなら、その先にはどんな答が?
「ナリ…ナリはずっと大阪に居て、ここと行き来して過ごしていくの?」
言ってしまった。
もしかしたら、知る事より今を大切にする方がいいのかもしれない。
だけど―。
「ナリ…あれ? ナリ?」
―ZZZ
―何で居眠ってんのよっ!!
いや、内心ホッとした。
真実を知る事に迷っている。迷うのなら知らなくていい。
だから…聞こえなくて良かったのかもしれない。だけど―。
「起きろっ!!」
「え? あ…ご、ごめんよ」
読んでいただき、ありがとうございます♪
恋に臆病な2人。
伝えたいのに伝えられないのは、その後をネガティブに考えてしまうから。
勢いで突っ走れる人って、羨ましいわ…
それにしても…うん。眠くなるよね 汗。
でも、今は居眠る時じゃないのよっ!!