[8]21:00
一方で、成史はどう感じてるのかしら?
一見リア充な感じにも見えるけど、そうじゃない。
ちょっと深い何かがありそうね…。
都会の森なんて、ちょっと立ち寄っただけさ。
大阪で起業なんて、僕なんかに出来る訳ないよ。
今更本当の事なんて言いにくいけど、僕は田舎者さ。森で暮らすのがお似合いなんだ。
街の喧騒なんて、恐怖以外の何でもない。
僕はスズメたちのように都会で暮らしていくことなんて出来ないんだ。
人の暮らしの中に共存するスズメ。
街中で自由に飛び交い、踊り遊ぶ姿に、僕は憧れのようなものを感じたかもしれない。
しかし、鳥たちが住処を選ぶように、人間だって都会を選ぶ人も居れば、山奥にポツンと住居を構える人も居る。
その気質や体質の差異によって、各々に合う住処は異なる。
それは、致し方ない事なんだ。
ゆっぴ―。
君には勘違いさせてしまったかもね。こめんよ。
でも、僕は今この時間が凄く楽しいよ。それは嘘じゃないんだ。
君のそのピュアな心。僕にとってそれは、春風のようだ。
春風は、僕の心を踊らせる。今しばらくは、君と一緒に踊っていたいよ。
「え?」
「ん?」
「何か…言いました?」
「え、あ、ああ…」
ボソッと呟いた成史の声が、微かに由莉奈の耳をくすぐった。
成史は焦った。
想いを伝えたいのに、悟られたくない。そんな矛盾した気持ちが、成史の心を燻らせる。
「ス、スモークチーズ…」
「あ、はい」
「「美味しい〜!!」」
心の燻りとは裏腹に、ドングリで燻したチーズはとても美味しく、おつまみにピッタリだ。
その美味しさが、由莉奈を笑顔にする。
そして成史は、ドヤ顔をして見せる。
―ナリ、あなたの心は、声がなくても伝わってくるわ。その優しい目が語っているもの。ねぇ、言って。言っていいのよ。
「ゆ、ゆっぴ…」
「はいっ!!」
由莉奈のあまりにも素早い返事に、成史は少し驚いて体を逸らした。
「あ、あのさ…」
ドキドキする。
声を顰め、成史が何か伝えようとしている。その期待感から、思わず大声で返事してしまった由莉奈は、気恥ずかしくなって俯いた。
「な、何でしょう…」
由莉奈の心の準備は出来ている。
慣れない笑顔だって、この人にならすぐにでも見せる事が出来るはず。
何だったら、涙だって流そう。
言い出しにくそうに口ごもる成史。あと一歩。あと一歩を―。
モジモジするかのように落ち着きなく、腕時計をチラチラと見る。
「ゆっぴ…」
由莉奈に緊張が走る。
思わずスモークチーズを口に運ぶ。
心の中でのシミュレーションは万全。あとはそのひと言に応えるのみだ。
「遅くなっちゃったけど、帰らなくて大丈夫?」
「へ???」
―か、帰すのかよっ!!
読んでいただき、ありがとうございます♪
ちょ、ちょっと! 成史ぃ〜っ!!
気遣うのもわかるけど、帰しちゃダメよ。
こんなピュアで優しいいい子、そうそう出会えないかもよ。
んもうっ!!