[2]15:00
男性と2人きりで1時間以上も居るのは、由莉奈にとって初めての出来事。
なんか、緊張するわね…
「ここです」
成史の別荘は、雰囲気のいいログハウスだ。
大きな家ではないが、木々に囲まれた広い庭があり、玄関から向かって左には斜め方向に川が流れ、その対岸に先程通って来た道が見える。
庭の周囲にはドングリの木が並び、塀の代わりに垣根がある。
「素敵な家ですね」
「そう言ってもらえると嬉しいな。ありがとう」
成史はニッコリ笑うと、「ちょっと待ってね」と言ってポケットからハンカチを取り出した。
「あ、ダメです。汚れちゃいますよ」
成史の行動を心配気に見る由莉奈は、思わず声を上げた。
庭に造り付けのテーブルと、それを囲む椅子。成史はハンカチでそれらを拭き上げて埃を払うと、そこに由莉奈を座らせて一旦家に入って行った。
垣根の向こうを通る道は、交通量も少なく、たまに乗用車が通り過ぎる程度。また、人の往来も稀だ。
―静かな場所。
周囲を見回してみる。
初めて男性に招かれた。少しドキドキする。
恋には奥手な由莉奈だが、いっそのこと突っ走ってもいいのかな? そんな感情が、心の奥から湧き上がって来ている。
でも、恋に突っ走るってどういう事なんだろう? それさえも分からない。
「お待たせ」
成史は2つのカップを手に、家から出て来た。
それには有名アウトドアブランドのロゴが描かれている。
小洒落た高級ブランドのコーヒーカップより、不思議と気分は盛り上がる。
「サイフォンで淹れたんだ。美味しいはずだよ」
川の方を眺める様に座り、振り返るように成史を見る由莉奈。
目を細めて微笑むと、その背後に成史は近付いた。
「背後からごめんよ」
コーヒーの入ったカップを、テーブルに置く。由莉奈はもう一度振り返ろうとした。その時、成史の腕に柔らかい感触が走った。
―あ。
一瞬、成史の動作が止まる。腕が由莉奈の胸に触れてしまった。
―お、大きいんだね。
成史は心の中で呟いた。
男性にとっての女性の胸は、異性としての象徴なのだろう。
母のような温もりと、抱きしめたくなるような衝動が、瞬時に頭の中で交差する。
「あ…」
赤らんだ顔を見合わせて、2人は照れくさそうに笑った。
少し恥ずかしがったのは、成史の方だった。
「え? あ、あぁ…ははは。ごめん」
「いやン、どうしたんですか?」
「あ、ぼ、僕、いけない事しちゃったかな」
「何言ってるんですか。大丈夫。アクシデントですよ」
―この人、意外と照れ屋さん。
―彼女、意外と積極的?
成史の顔を見て微笑む由莉奈。
その一方で、この好青年は予想外にもモジモジしていた。
由莉奈には、その姿、その仕草がとても印象的だった。
―キュン♡
「ど、どうかしました?」
「いえ…」
―この人、うふっ! 可愛い。
読んでいただき、ありがとうございます♪
あぁ、触れちゃったよぉ…
恋、走り出すのかなぁ?
どうか引き続き温かく見守ってあげてくださいね!