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林由莉奈は、「その時私は鳥になっていた」主人公・平野杏美の親友。
本作は、その由莉奈を中心にストーリーを展開します。
京都市の最北、とある町外れの小じんまりした住宅街に、林由莉奈は住んでいる。
周囲を山に囲まれた、豊かな自然。近隣にはログハウスが点在する別荘地もある。
交通の弁はお世辞にも良いとは言えない。しかし、ロケーション的にはとても恵まれた環境だろう。
由莉奈は、天気の良い休日にはいつも町並みを眺めて散歩している。
「こんにちは!」
椎名成史は、青年実業家であるらしい。
この町の一画にログハウスの別荘を構える。
都会のタワーマンションに住むが、週末などには度々この町を訪れるのだと聞く。
その頻度の高さから、既に由莉奈とも顔見知りだ。
背が高い訳でもなく、体格がいい訳でもないが、その容姿は端正だ。実業家というだけあって、ラフな服装であっても決して乱れている訳ではなく、好感度は高い。
「あ、こんにちは。今日も来られてるんですね」
対する由莉奈は、小柄だが色気に満ちている。美人ではないが、男子からの好感度はこれまた高い。
なのに由莉奈は、あまり他人との交流を持たない。
それはある意味致し方ないところで、中学時代、親友が突如不登校になり、自身も軽度ではあるが人間不信に陥った経験があるからだ。
つまり、人との交流が苦手なのだ。
そんな由莉奈は、大学を卒業すると一人この町へ移住し、在宅ワークをしている。
成史とは、もう何度会った事だろう?
所詮は小さな町だ。道を歩けば、知った顔ばかり。
そんな中で、ややもすれば“他所者”のレッテルでも貼られそうな都会の男性。同年代の住民が極めて少ない中で、多少歳上ではあるのだろうが、比較的年齢が近そうな彼に対し、恋とは違う次元で好意を抱いている。
「静かで、人も少なくて、いい環境だしね。何度来ても飽きないな」
由莉奈もこの町が好きで移住した。この町を褒められるのは嬉しいものだ。
こんな何気ない会話にも、由莉奈は様々な思いを巡らせる。人が苦手とはいえ、成史ならゆっくり時間を共にしても大丈夫な気がしていた。
ある週末、二人は川沿いの道で、また出会った。いつもは挨拶を交わす程度だったが、この日は違った。
春の陽気がそうさせるのだろうか? 由莉奈は、少し成史と会話を試みた。
「どちらにお住まいなんですか?」
「大阪の北部の街です。元は鹿児島だったんですけど、仕事の関係で日本中飛び回ってて、今は大阪市に来ています」
起業し、成功を収めた。
成史の笑顔は自信に満ちてはいるものの、それを鼻にかける様でもなく自然だ。
「僕、この先に別荘構えてて、今はそこに寝泊まりしてるんです。良かったら来ませんか? 庭でコーヒーでも」
―え!?
「自然の中で飲むコーヒー、美味しいですよ」
まさかの誘い。しかし、即答はせず、遠慮がちな態度を示してみる。
「あ、いえ…」
「お忙しいんでしたら、無理にとは言いませんよ。また今度宜しければ…」
サラッと笑顔を見せ、軽く会釈すると、成史は去ろうとした。
「あ、待って!…ください!」
「え?」
「あの、お邪魔じゃ…なければ…」
この人1人ぐらいなら大丈夫そう。久しぶりに新しい友達が出来るかもしれない。そうなれば、また暮らしに張り合いが出てきそうだ。
由莉奈はそう思い、成史の誘いに乗る事にした。
読んでいただき、ありがとうございます!
本作は短編レベルのストーリーを時間毎で区切っています。
進んでいくにつれ、とても短い節がありますが、そういうものだとご容赦くださいね。