1-03同居
「まぁ、デクス様がこちらにお見えになるですって!?」
「そうか、それでは皆に第一王子を迎えても、恥ずかしくないよう準備させよう」
「明日、お見えになるそうです。お父さま、間に合いますでしょうか?」
「我が公爵邸は常にメイドや使用人に、どこも綺麗に掃除させているから大丈夫だ」
「はい、それでは私は明日までに政治学の復習を致します」
「シャイン、もし分からないことがあったら、すぐに私か家庭教師に聞きなさい」
私はお父さまにかしこまりましたと挨拶をして、それから自分の部屋で再び政治学の勉強をやり直した。私のできる限りの知識を覚えて、デクス様からの質問に何でも答えられるようにした。不安なところがあったら家庭教師の先生か、お父さまにまた確認しておいた。私の侍女たちは私が明日着るドレス選びをしていた、私はデクス様は私自身にはそんなに関心が無いと思っていた。そして、翌日になったらデクス様が我が公爵家を訪れた。
「急に訪問してすまない、シャイン」
「いいえ、ようこそお越しくださいました。デクス殿下」
「シャイン、俺のことはデクスでいい」
「貴方様を呼び捨てにするなど臣下として不敬です、デクス殿下」
「俺が許すと言っている、シャイン」
「それでは、デクス様とお呼びしてよろしいでしょうか?」
デクス様はとても綺麗な薔薇の花束を持って来られた、そして私が話しかけたらまず敬称を止めるように言われた。さすがに第一王子を呼び捨てにはできないので、この前の非常時の時のように私はデクス様と呼びかけることにした。デクス様はそれで満足そうに笑った、そうしてからデクス様が持ってこられた、とても綺麗な真っ赤な薔薇の花束を私に向かって差し出された。
「シャインほど美しくないが、受け取ってくれると嬉しい」
「デクス様、とても綺麗な薔薇の花束ですわ。このような贈り物を頂き、私はとても嬉しいです」
「シャインが嬉しいなら俺も嬉しい、俺は君のその可愛い笑顔が好きだ。今日の清楚な白いドレスもよく似合っている」
「あっ、ありがとうございます」
「それでは少し俺と話しをしようか?」
「はい、デクス様。すぐに、応接室へご案内致します」
デクス様は初めて会った時の冷たい顔とは全く違って、穏やかで優しい笑顔で私に綺麗な薔薇の花束をくれた、それに私の着ていたドレスまで褒めてくださった。私はデクス様に花束のお礼を言って彼を応接室に案内した、そして私は綺麗な薔薇の花束を執事に預けた、執事がその花束を私の部屋に飾ってくれるはずだ。応接室についてお互いに座ったらデクス様はまた政治の難しい質問をしてきた、もちろん私はそれに出来る限り答えてみせた。でも、今度はそれだけでは済まなかった。
「シャイン、君が聡明な女性であることは分かった」
「お褒めのお言葉を賜り、私は光栄でございます」
「今日は別の頼みがあるんだ、シャイン。これは君にしかできないことだと俺は思っている」
「何でございましょうか、デクス様。私にできることなら、何でもおっしゃってくださいませ」
「それではシャインの膝を、少しの間だけ俺に貸してくれ」
「え?」
デクス様は最初は難しい政治学の話をしていたが、それが終わると私が思いもしないことを言いだした。そしてデクス様が椅子から立ち上がり、私が座っていたソファにやってきた。そして私はソファの一番端に座ることになり、靴を脱いでソファに寝転んだデクス様を膝枕することになった。私は最初何が起きたのか分からなかった、デクス様はとても嬉しそうな顔をして私に膝枕されるとすぐに深く眠ってしまった。
「あっ、あの、デクス様?」
「………………」
デクス様は完全に私の膝枕で眠ってしまっていた、私は当然ながら身動きができずにただデクス様の、五歳児らしい可愛い寝顔を見ているしかなかった。そうして二時間ほど過ぎるとデクス様は目を覚まされた、本当に良く眠れたらしくデクスさまはとても満足そうに笑っていた。私は膝枕していた足がしびれていた、だからすぐにはソファから立ち上がれなかった。
「ああ、可愛いシャイン。そんなに急いで立ち上がらなくていい」
「はい、分かりました。……執務でお疲れなのですか、デクス様」
「それもあるがあの馬車から落ちる夢を見るんだ、だがあの時はシャインがいたから平気だった」
「まぁ、夜によく眠れないのでしたら、お医者さまに診て頂かないといけません」
「もう主治医には診て貰っている、睡眠薬も渡されたがそれを飲んでも、やはり俺は眠れなかった」
「それは大変なことです、人間は眠らないと健康を損ないます」
私はデクス様の健康が心配になった、よく見てみるとデクス様の目元にはクマができていた。明らかに睡眠が足りていないのが分かった、でももう王宮の主治医にも診て貰っているそうだ。それなら医療に関して知識のない私にできることはなかった、でもデクス様は私をみると幸せそうに笑った。そうしてデクス様はとっても良い笑顔で、私にとってとんでもないことを言いだした。
「ああ、明日から毎日この公爵家へ俺は通う」
「え!?」
「俺が眠るにはシャインが傍にいなければ駄目だ、今日シャインの傍で眠ってみてよく分かった」
「でもまた政敵に襲撃されるかもしれません、デクス様それはあまりにも危険な行動です」
「もちろん危険だと俺も思っている、だから今は父上にも相談というかお願いしているところだ」
「そうでしたら良い解決策が見つかりそうですね、それまではしばらく我が家に通われるということですか、それでは私からも父にそう話しておきましょう」
そうして今日のところはデクス様は王宮に、まだ明るいうちに近衛兵をつれて帰っていかれた。帰る間際にデクス様は私の手をとりキスをしてくださった、私はそのことに思わず飛び上がるほど驚いた。そんな私を見て楽しそうに笑いながらデクス様は帰っていかれた、私はお父様が帰ってきたらデクス様が、しばらく我が家に通われるということを伝えた。そうしたらお父さまは国王陛下から普段の出仕だけでなくて、お父さまと国王陛下が二人きりで話されたいと明日は呼び出されていた。
「国王陛下から二人きりでの呼び出しとは、一体どのような大事なお話でしょう。お父さま」
「うむ、少なくともお前たちの婚約破棄などではなさそうだ」
「ええ、デクス様は本当に驚くほど、私にお優しくなられました」
「ああ、そのようだな。あのお前に贈られた見事な薔薇の花束も、実は王家にしか咲かない特別で貴重な薔薇だ」
「ええ!? あの薔薇の花束にはそんなに、凄い価値があるものだったのですか!?」
「そうだ、だからお前のことをデクス殿下が嫌っているとは思えん」
私とお父さまは国王陛下からの呼び出しに頭をひねった、私には笑顔で帰られたデクス様が私を嫌っているとは思えなかった。それでは何故お父さまに呼び出しがかかったのだろうか、それは悪いことではなさそうだったが、一体何が起こるのか私には予想できなかった。聡明な私のお父さまも首を傾げていたくらいだ、私ごとき若輩者が国王陛下のお心を知ることなどできなかった。翌日も本当にデクス様は我が公爵家を訪れた、今度はピンクの薔薇の花束を持って来られていた。
「やぁ、シャイン。今日も君は美しいなその黄色いドレスも似合っている、そんな君には敵わないが今日はピンクの薔薇の花にしてみた」
「まぁ、可愛らしい薔薇をこんなに沢山ありがとうございます、それでは応接室でまたお話をなさいますか」
「ああ、そうするとしよう。それから今日も君の膝を俺が独占したい、昨日も碌に寝ていないんだ」
「それはお体が辛いでしょう、まずはお休みになられてから、それからお話を致しましょう」
「シャインは本当に優しいな、俺は君が婚約者で心から嬉しいと思う。婚約をしてくれた父上や公爵には、本気に感謝しているんだ」
「わっ、私程度の貴族令嬢でしたら、美しい者も、優しい者もいくらだっております」
今日もデクス様は私のドレス姿を褒めてくれた、そして高級そうなピンクの薔薇の花束を持って来られた。昨日は真っ赤な大人っぽい薔薇だったから、私はこちらのピンクの可愛い薔薇の方が気に入った。だから執事にその薔薇の花束を大事に渡したが、必ず私の部屋に飾ってくれるように頼んでおいた。それから昨日とは逆にまずデクス様は、私に膝枕されてソファでお眠りになった。
「デクス様、よくお眠りください」
「………………」
デクス様は本当に深く眠っていて、私はその無防備な可愛い寝顔を楽しんだ。二時間ほど経ったらデクス様は起きて、それからまた私と政治学について語り合った。デクス様とのお話は内容は難しかったが、勉強のしがいもあって楽しかった。最初の頃のように威圧的でなく、デクス様は微笑んで優しく話してくれるから尚のこと楽しいひと時を過ごせた。
「それじゃ、可愛いシャイン。また、明日会おう」
「はい、お待ちしております。デクス様」
「ははっ、シャイン。今夜君の父上である公爵が帰ってきたら、君はとても驚いてしまうかもしれない」
「え? 私の父が何か王家にしましたでしょうか、父は真面目ですので王家に失礼なことはしていないはずです」
「確かに君の父である公爵は真面目で有能な男だ、そして娘想いで優しい側面もある良い父親だ」
「はい、お褒めに預かり光栄でございます。父が何を聞いてくるか私には分かりませんが、悪い事ではないでしょうから楽しみにしております」
デクス様はそう言ってまた私の手にキスをした、私も昨日で慣れていたので今度は飛び上がって驚いたりしなかった。そしてとても楽しそうに笑いながらデクス様は王家の馬車に乗った。私はデクス様にとって何がそんなに楽しいのか不思議だった、まさか私の父がいきなり投獄などされることは無いと思っていた。
私の父はとても真面目で王室にしっかりと忠誠を誓っていた、だから私は何も心配せずにお父さまの帰りを待っていた、まさか父があんな話を持ってくるとは思ってもいなかった。お父さまは帰ってくるなり私を執務室に連れていった、そうしてから大量に流れる汗を拭いて部屋に置いてあった水を飲んた、そして私とお父さましかいない執務室でとんでもないことを言いだした。
「シャイン!! お前は明日から王宮で暮らすことになったぞ!!」
「ええ!? お父さま正気ですか!? 私はデクス様の婚約者ですが、まだ結婚はしておりません!?」
「それがデクス様がお前がいないと眠れないそうだ!! だから国王陛下からじきじきにお前にご命令が出ている!!」
「そんな!? まだ結婚もしていない男女が、一緒に生活するなんて非常識です!!」
「だが国王陛下からのご命令だ、だからお前に逆らうことはできない。その代わりにこれから先にお前に何が遭っても、お前とデクス様を必ず結婚させるという魔法契約書を書いて貰った」
「そっ、そこまでされては拒めません。私は明日から王宮で暮らすことに致します、それでは荷造りするように侍女に命じておきましょう」
こうして私はまだデクス様と結婚していないのに王宮で暮らすことになった、眠れないと言うデクス様の言葉から、おそらくは寝所も同じ場所になるはずだった。私は眩暈がして思わず床に倒れそうになった、私はまだたった五歳児で王宮で暮らすには幼過ぎた。でも国王陛下からのご命令では逆らえなかった、私は侍女に荷物を急いでまとめるように命令しておいた。
「王家に恥ずかしくないように綺麗で、でも派手過ぎないドレスを持っていきます!!」
「はい、お嬢様。こちらのドレスでよろしいでしょうか? それともあちらのドレスになさいますか?」
「とりあえず一週間分くらいでまとめなさい、それから靴や宝石もお願いそれに本も必要です!!」
「はい、かしこまりました。ええとこのドレスと靴、それに宝石箱っとそれから本を……」
「はぁ~、それにしても私が王宮で暮らせるかしら、まだマナーだってまだ完全には学んでいないのに」
「おっ、お嬢様。とりあえずお荷物をまとめました、これで足りない分は公爵様に運んで頂きますか?」
私は慌ただしく侍女に荷物をまとめさせた、私はたった五歳児なのに王宮なんて凄いところに、そこに住みに行くことになってしまった。とりあえずは一週間分くらいの荷物でいいだろう、足りない分はお父さまに持ってきて貰うことにした。そうして私はデクス様がおっしゃったとおりとても驚いていた、デクス様が楽しそうに笑っていた意味は分からなかったが、とにかく驚きすぎて私はその夜はよく眠れなかった。
「本日からこの王宮に住むことになりました、シャイン・コンセプト・ディアノイアと申します」
「ようこそ王宮へいらっしゃいました、シャイン公爵令嬢。私は女官長のレセット・ルクスス・コテッジと申します、どうぞお見知りおきください」
「それでは私のお部屋に案内してもらえますか、レセット女官長」
「はい、シャイン公爵令嬢のお部屋は、王太子妃のお部屋となっております。お荷物など女官に運ばせます、そしてシャイン公爵令嬢付きの侍女を十名ほど紹介致します」
「おっ、王太子妃の部屋ですか!? 私が本当にそのお部屋を使ってよろしいのですか?」
「国王陛下からのご命令でございます、それではお足元に気をつけてこちらへどうぞ。シャイン公爵令嬢、後ほど侍女たちを紹介致します」
そうして翌日には私はなんと王太子妃の部屋に住むことになった、まだデクス様とは結婚もしていないのにだ。私はせいぜい王宮の客室に案内されるだけだと思っていた、でも私の予想を遥かに裏切ってとても豪華だが上品な部屋、そう王太子妃の部屋に私は案内された。私の持ってきた荷物は速やかに運びこまれて、そして新しく私の侍女になった者たちがそれを片付けていった。
「シャイン公爵令嬢、お荷物が少ないように見受けられます」
お読みいただき、ありがとうございました!!
最近の作者の制作意欲は、読者である皆さまにかかっています!!
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