2.出会い
2.出会い
ユーク村が見えなくなるほど歩くと、日は翳り、空気も冷え始めた。後少しで村から一番近い森に入るということもあり、今日は一旦ここで一夜を明かすことにした。
テントや火など一通り準備を終えると、手頃な小石を数個、拾い集め、魔導ポーチから取り出したナイフで警戒のルーン文字を刻み魔力を通す。
こうすることでただの石から警戒の魔道具へと変貌する。これは四方に配置することでその中に違う魔力を持つモノが侵入した場合大きく動き音を鳴らすことで侵入を教えてくれる優れものだ。ただし1日経つと割れて効力は無くなってしまう制約もある。
僕はイルおばさんから貰ったお弁当のスープが温まるのを待ちながら少し魔導や、能力についての復習をする。
ある動作や操作を行うことで発動する術。それが魔導である。
そしてルーンを使うことの出来る人間は限られている。
と言うのも この世界には能力が存在する。
ルーンもそのひとつということだ。
それらは4つの型に区分され、そこから更に3種に分類されている。
1つめは、顕現型。
様々な道具を1つだけ、どこからともなく取り出すことの出来る能力のことでありそれらは、武具、武装、道具と分けられている。
2つめは強化型。
名前の通り自信を強化する能力であり、覚醒、五感、身体と分けられている。
3つ目は召喚。死者や人形、精霊などを使役する能力で霊体、傀儡、契約
と分けられている。
最後は魔法型。
太古の時代ではこれらの能力は『魔法』、という形で存在しており、その力を大きく引き継がれた能力とされていて、それらは魔術、魔導、魔技と分けられている。
これら12の能力から最低1つ、魔力を扱える種族のものは体が成熟すると共に発現する。
僕は前述した通り、魔法型の魔導の能力。そして、顕現型の武装の能力を持っている。
能力は自身の素質によって発言すると言うが、魔法研究と剣術を修めていたからこその2つ持ちでありこの能力と言える。
これで今日すべきことを一通り終えたため、イルおばさんからもらったお弁当である一切れの肉を挟んだスープと焚き火で温め直したスープだ。それには野菜がたくさん入っていていつもより豪華なものだった。村長夫婦の暖かい想いの詰まった食事を口にしながら、改めて今の持ち物を再確認し、リストアップする。
○道具類
・テント1張り
・火おこしの魔導具1つ
・魔導水筒1本
・魔導ポーチ1個
・#予備の__・・・__#ロングソード1振り
・解体用ナイフ1挺
・携帯ランプ1つ
・着替えの服3着
・携帯食料4日分
・魔導関連の書物13冊
・その他雑貨数個
○貨幣
・1万ニムロカード2枚
・5千ニムロカード1枚
・1千ニムロカード1枚
・金貨1枚(1枚500ニムロ)
・大銀貨3枚(1枚100ニムロ)
・銀貨1枚(1枚50ニムロ)
・大銅貨2枚(1枚10ニムロ)
・銅貨1枚(1枚1ニムロ)
計26871ニムロ
貨幣が少し少ないのが心許ないが辺境の村人としてはかなりの大金である。それにしてもこの魔導ポーチにはかなり助けられてはいるがナイフを取りだした時にある欠点が発覚した。
それは狙ったものを取り出すには練習が必要であるということ。戦闘用に予備のロングソードを今のうちに取りだしておいてもいいのだが、ここは敢えて取り出さないでおく。
しかし、このままでは不便なので練習しておきたいところではあるのだが、明日は早朝から森を抜けなければならない。
と言うのも、森の中で一夜過ごすのは一人ではとても危険でそれだけは避けなければならないからだ。僕は日が完全に落ち切る前に火を消しテントに戻る。
少しで森を抜けるという時に3匹のフォレストウルフという魔物と遭遇する。今はなるべく戦闘を避けるため、森を抜けられる方向にゆっくりと進む。物音を立てないように警戒して歩くがフォレストウルフの動向に気を取られ、足元の枝を踏み抜き音を立ててしまう。3匹が同時に振り向き僕を視認する。フォレストウルフがこちらに攻撃をする前にこちらの攻撃手段を用意しなければならないが、予備のロングソードはポーチの中で的確にロングソードを取り出せるかどうか危うい。そのためここは、想定通り能力を使用しこの危機を脱することとする。
【斬撃のルーンソード】
これが僕の武具の能力だ。
斬撃のルーンが刻まれたロングソードで、まさに僕の戦闘スタイルにあった能力と言えるだろう。発動条件は『魔力を通して剣を振る』で発動条件はとても緩いが燃費が悪く一長一短だ。
3匹のフォレストウルフは虚空から剣を取り出した僕を警戒してか一定の距離感を保ったままで攻撃するそぶりがない。そのまま膠着状態が続いていると森の外から群れの長のものと思われる遠吠えが響きわたる。それを聞いた3匹は僕への警戒状態を時一目散で森の外へと駆ける。
僕は今の状況の全容を考える。
何か良くないことが起こったのは確かだ。
こんなタイミングよく退避の遠吠えをするとも思えないし第一森の外というのがおかしな点である。そう考えるとこの遠吠えは…『襲撃』、もしくは『増援』。
そう考えるのが妥当であろう。
そう考えを進めていると、後ろから複数のフォレストウルフの足音がこちらに迫る。僕は咄嗟に身を隠す。やはりフォレストウルフの群れは一方向に向かっているようだ。
ある程度時間が経ってから森を出ようかと思ったが、襲われているであろう人物の安否が心配である。そのためフォレストウルフの群れと同じ方向に進む。
すると、剣戟の音が数回したあと、馬車が横転する音と馬の鳴き声。そして男の悲鳴。
どうやら馬車に乗った男性が先ほどのフォレストウルフの群れからの襲撃に遭っているようだ。
襲撃が始まったとなると一刻を争う事態だ。幸いこれ以上の増援は無いようだが先ほど聞こえていた剣戟の音はもう聞こえない。
向かう足を一層速くし、森を抜ける。
するとそこには、倒れた馬車と商品と思われる積荷の数々。そして負傷した護衛を庇い、防戦一方となった護衛らとフォレストウルフに襲われる一歩手前の状態の商人の姿があった。
僕はすかさずルーンスラストに魔力を通し、空を突き、フォレストウルフの首元へ向けて突きの斬撃を飛ばす。フォレストウルフは斬撃に気付き跳躍し、回避するも後ろ足に当たり転倒。僕はそのまま肉薄し今度はルーンスラストで斬りつけ、フォレストウルフ一匹の討伐に成功する。
僕が一匹片付けたことで他のフォレストウルフに隙が生じ、護衛の数人は上手く切り返し、負傷した護衛の手当てとフォレストウルフの討伐に合流する。
「おぉ冒険者の方か…ありがたい…。」
商人は腰が抜けているようでその場から動くことができないらしい。一先ず、自分が冒険者では無いことを正したいところだが、今はそんな暇がない、僕は全体の状況を把握する。
フォレストウルフは計4匹で2匹は僕を狙っている。
商人の護衛は6人で3人は重傷と見られる傷を負っていて2人でその護衛の回復措置をしている。
1人は目立った傷はないが2匹のフォレストウルフに囲まれつつ回復措置をとっている護衛を庇うことに手一杯のようだ。
しかしあの様子なら回復が出来次第2匹の討伐は容易いだろう。
しかし、こちらも商人を庇いながらの戦闘ということもあり、数と戦況どちらも不利と言わざるを得ない。しかも、まだフォレストウルフの長らしき姿を目にしていない。つまり最低でも一匹はどこかに潜んでいるということだ。
戦況を悪化させないよう、慎重にフォレストウルフに攻撃を仕掛ける。
最初に仕掛けてきたのは二匹のフォレストウルフ。左右に分かれ挟撃を仕掛けるべく僕へ向かってくる。
それに対して僕はルーンスラストへ魔力を通し、一振りし水平に大きな斬撃を飛ばす。
先ほど見ていたためかフォレストウルフらは簡単に斬撃を避け僕に肉薄し、一匹は首元、もう一匹は脇腹を目掛けて噛みつこうとする。
僕はそれをバックステップで躱し牽制の斬撃を飛ばすが姿勢を崩してしまう。二匹からの追撃に備えルーンスラストで防御の体制を取る。
すると斜め右後ろの方向から獣の足音。咄嗟に振り向くとフォレストウルフの長と思われる一回り大きい個体が目前に迫っていた。
フォレストウルフの長はその鋭い爪で斬りつけようと、元から対峙していた2匹は、再び左右に展開し噛みつきによる挟撃を仕掛けようとしている。
万事休すとも思えるこの状況。僕はルーンスラストを解除して、切り札を解放する。
【魔導の両腕】
そう唱えると僕の両腕には無数のルーン文字が刻まれ、魔力が無数の翼の形となり現れる。
"魔翼解放"。
そう言われる現象でこれが僕の真の能力だ。
これの発現条件はまだまだ不明瞭であるが魔力と能力の親和性や、想いの力が変質させる。そう言われている。
僕の場合は以前村が魔物に襲われた時に発現した。
こちらはルーンスラストと違い、斬撃以外のルーンも扱うことができる。
ルーンは自身の魔力との親和性が高い媒介であるほど効力は強くなり、複数のルーンの刻印にも耐えることができる。
つまり、本来媒介には出来ない自分の身体という一番自分の魔力と親和性の高いものを媒介とするこの能力は、鋼鉄化など複数の防衛系のルーンを常時発動させ、さらに斬撃などの攻撃系のルーンを複数個、発動させることができるのだ。
僕は魔導の両腕に斬撃のルーンを追加で発動させ両腕を切り払うように動かし十字の斬撃を飛ばすことで左右のフォレストウルフの討伐に成功するがフォレストウルフの長からの斬りつけ攻撃はもろに喰らってしまい、血が吹き出す。しかし、ダメージを負ったのは相手も同じのようで胸元には血が滴り、息も荒くなっている。
先に一撃与えた方が生き残るだろう。
斬撃は強力だが予備動作が必要となる分後手にまわってしまうが、現状、予備動作が短くかつ、敵に有効な攻撃のルーンは斬撃くらいだ。
そのため僕は斬撃の予備動作を他のルーンで無理やり押し出し遠距離攻撃を狙う。
片腕を前に突き出し、指を指すように構え、斬撃と放出、そして連撃のルーンを発動させようとする。ところが失血が酷く視界が歪む。もちろん相手はそれを見逃さなかった。
ここぞとばかりにとどめを刺すべく肉薄する。
焦って攻撃を仕掛けると惜しくも右にそれ、牙は喉元に迫る。
今からルーンタクトで防御しても間に合う見込みはない。
決死の攻撃を試みようとルーンの起動を開始する。
しかし、ルーンが発動する直前、右から青く光る魔弾がフォレストウルフの頭を貫きフォレストウルフもは左に吹き飛び息絶える。
「なんか相当ピンチだったみたいね?正義感が強いのはいいことだけども、もっと慎重になるべきね。はっ……これだから冒険者は…。」
その声の主の方に振り向くとそこには、僕と同年代であろう女性がたっていた。
髪は夜空のように青黒く、太陽に照らされると綺麗な青が浮きでて、胸元くらいの長さをしている。
服装は森を歩いているとは思えないほど軽装で、銀の装飾のある黒いローブと紺色のワンピースを纏っていた。
一見すると高貴な血筋のお嬢様のような出で立ちの彼女だが、手には白銀の大きな魔術の杖を手にしていた。
どうやら僕は彼女に助けられたようだ。
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作者の一言
やっぱり行商人が狼とかに襲われてるイベントはここまで来たら様式美ですね。
序盤の能力の説明が説明臭すぎて辟易って感じです。
ここに入れなければいいのですが、タイミング的に仕方ないと思って許してください。あえて説明しない意味がなかったので……






