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第99話:学院祭ときどきイビルパニック16


 太陽が天頂に昇る頃。


 長かった武闘大会も決勝戦を迎えていた。


 アインが特に怪我もせず圧勝したため、スケジュールは速やかに消化される。


 決勝の相手は青年だった。


 アインより二つ三つほど年齢が高い。


 が、その実力は推し量れた。


「ただ者では無い」


 それがアインの感想で、鬼一の結論でもあった。


「決勝戦! 試合開始!」


 その一言でワッと観客がどよめく。


 アインと青年は間合いを詰める。


 アインの手刀を青年が受け流し、青年の掌底をアインは勁を練って弾く。


 一手。


 二手。


 三手。


 拳の応酬が行なわれた。


 どちらも互いに相手の力量を見極めるための牽制だ。


 が、そのレベルは最高位に達している。


「ほう」


 と青年。


「その年で良くもそこまで練られる……」


「こっちの台詞だ」


 アインも減らず口を叩いた。


 もっとも余裕があるわけではない。


 今のアインにとっては大会で最大の強敵と取れる。


 脂肪が淘汰されて筋肉のみで構成された体つき。


 アインと同じく途方もない時間を武術に捧げた逸れ者だ。


「……っ!」


 アインから間合いを詰める。


 一手。


 二手。


 三手。


 全て受け流される。


 カウンターで青年の三手が襲いかかる。


 こちらも受け流す。


「ふぅ……」


「はは……」


 互いに拮抗する実力。


 当然つまらないはずもない。


 実力を発揮出来るのは闘争の本質だ。


 自らの蓄えた力の解放は刻にセックスより尚えがたい快楽となる。


 それを決勝戦の二人は感じ取っていた。


 青年が間合いを詰めて拳撃と蹴撃を放ってくる。


 それに対応していると、


「まずいぞ」


 唐突に鬼一の思念がアインのソレに割り込んだ。


「何がだ師匠?」


 微塵も動揺せず青年の武術を捌くアイン。


「ソルトが学院街に現れた」


「っ!」


「完全にケイオス派だ。無尽蔵に魔族を召喚して暴れている。もはや抑止力を気にかけていないところを見ると自我を奪われているな」


「まぁそれだけ行使していたしな」


 アインは過去の魔族の因縁を思い出す。


「それだけでは無い」


 更に鬼一は言う。


「ケイオス派はソルトを含め現時点で四人居る」


「ソルトの召喚した魔族と契約したケイオス派……か」


「然りじゃ。行くぞい」


「今忙しい」


「じゃったな」


 鬼一もその辺は寛容だ。


「まぁさっさと終わらせるか」


 そう言ってアインは自身にかけている負荷を取り除いた。


 まるで羽が生えたように体が軽くなる。


 次の一瞬でアインは青年の懐深くに侵入を果たした。


「な……っ!」


 いきなりアインの速度が倍増したのだ。


 青年の驚きも当然だろう。


 尤もアインの斟酌する事柄でもないが。


「すまん。優勝するぞ」


 そうきっぱり言うとアインは青年の鳩尾に肘を埋め込んで悶絶させ、さらに髪を掴んで急激に引っ張り、


「……っ!」


 神速で引き寄せられた顔面に膝蹴りを加える。


「が……っ!」


 頭蓋にひびが入ったのだろう……青年は痛みに悶絶していた。


 そこに更なる追撃を加えて意識を刈り取る。


 武闘大会は終わったが、問題はそこには無い。


「師匠。状況は?」


「ケイオス派と魔族が学院街の住人を襲っている。数は全体で三十を超える。しかもこの数字はまだ楽観論だ。時間経過と共に倍々に増えていくだろう」


 アインにしてみれば軽い数字だが一般市民にとっては絶望的な数字だろう。


 そうであるからこそ教会という抑止力が存在するのだが。


「審問官は?」


「応戦中じゃ。が、数が数故な」


「教皇として命じます。アイス卿は代行師としての務めを果たしなさい」


 事ここに至ってふざけるレイヴでもない。


 鬼一を通した思念チャットで命じるレイヴに、


「了解」


 とアインは答えた。


「アイン様?」


 控え室に飛び込んだ真に迫ったアインの態度を見て困惑するリリィに、


「この場を離れるなよ」


 アインはそう言って鬼一を手に取る。


 すぐに控え室を飛び出して誰も見ていないことを認識すると、コロシアムの通路でアイスへと成り代わる。


 白い髪と瞳……宗教礼服を纏った美少女……即ちアイス枢機卿だ。


 既に禁術で制限していた負荷はない。


 神速でアイスはケイオス派の誅戮に意識を向けるのだった。


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