第98話:学院祭ときどきイビルパニック15
そんなこんなで武闘大会も残るは準決勝と決勝のみ。
三試合だけであるから午前中には終わるプログラムだ。
午後からはファッションショーが待っている。
アインには頭痛の種であるのだが。
「やれやれ」
アインは控え室で嘆息していた。
「優勝するぞい」
鬼一が発破した。
「他人事だと思いやがって」
「他人事じゃしな」
「だろうな」
相も変わらずこの師弟は不変である。
「あはは……」
とリリィは遠慮がちに笑う。
「ちなみに相手は?」
「名は知らんが屈強な兵士じゃな。よく鍛えられておる」
それから特徴をサラリと口にする。
「勝てるんですか?」
「知らん」
「知らんの」
あまりに無責任な二人。
というかアインにしてみれば当事者なのだが。
「怪我だけは避けてくださいね?」
「まぁ無理だよな」
「怪我なされるんですか!?」
「そっちの意味じゃねえよ」
アインは肩をすくめる。
「ではどっちの意味で?」
「怪我するのが難しいってこった」
それを口にすると運営に闘技場まで案内された。
待っていたのは大男。
アインより二十センチは大きい屈強な益荒男だった。
無精ヒゲが生えているが、体つきは丁寧に鍛錬されたソレ。
「うわ」
と引くアイン。
「良い試合をしよう」
益荒男はそう握手を求めてきた。
「そうだな」
アインは握手に応じず益荒男から距離を取る。
ガヤガヤと観客が騒ぐ。
準決勝ということもあって注目度は抜群だ。
貴賓席にレイヴも見て取れる。
「なんだかな」
がアインの率直な感想だ。
元々祭りを客として楽しむつもりだったのだが予想図とは離れたことをしている。
別段不満はないが無精の身でもある故、疑問の提議は避けられない。
「腹をくくるか」
気合いを入れる。
司会進行が場を盛り上げ、
「試合開始!」
と高らかに宣言する。
アインは脱力して歩き出した。
益荒男は静観の構え。
比喩表現では無く。
ゆったり歩くアインの隙を見ようとしているのだろうが、そんなものは存在しなかった。
こと正面からの一対一において罠や挑発以外で隙を作る方が難しい。
そういう風にアインは鬼一に造られた。
益荒男の間合いに平然と入るアイン。
「しっ!」
と掌底を放つ益荒男。
対するアインも掌底を放つ。
手の平がぶつかり合う。
同時に互いに互いの拳を握り合う。
「ほう?」
と益荒男。
「握力で俺と争う気か?」
自信満々の益荒男に、
「別段負ける気はしないが付き合うぞ?」
アインの返答も中々だ。
そして二人はグッと互いに手を握り合った。
ギリギリと力比べが始まる。
観客は困惑していた。
握力比べを始めれば華にならないのはアインとて百も承知だが。
「ぐ……が……!」
先に苦しげな声を出したのは益荒男。
ググッとアインの握力に押される。
「ちぃ!」
もう片方の手で拳を作り振るうが、
「…………」
アインが更に力を込めると、
「げがぁ……!」
益荒男の神経が握りつぶされている手に集中した。
当然拳は弱々しくなる。
「離せ……!」
「負けを認めるのならな」
「出来るか……!」
「ほう?」
さらにもう一段階力を込めるアイン。
激痛が益荒男を襲う。
「がぁぁぁ!」
苦悶する益荒男。
「わかった! 負けだ! 見逃してくれ!」
「最初からそう言えよ」
そして手を離すアイン。
「馬鹿め!」
次の瞬間、アインの逆手の拳が益荒男の顎をかすめた。
アインの握力から解放されて反撃に出ようとした益荒男は、意識を持って行かれて気絶するのだった。




