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第96話:学院祭ときどきイビルパニック13


 三日目。


 学院祭最終日。


 アインは朝早くにベッドを起き出してアイスとして教会へ。


 それからアインとして自身の寮部屋に戻った。


 レイヴには書き置きを残してある。


 そして朝の鍛錬に励むのだ。


 体力尽きるまで軽い材質の木刀を振り続ける。


 リリィが、


「アイン様」


 と微笑んで眺めている。


「既にお強いのにこれ以上を求めるのですか?」


「まだ道半ばにも達してないぞ?」


 アインはあっさりと言う。


「これほどなのに……ですか?」


「ああ」


「鬼一様……」


「ちょうど牛若とどっこいってところじゃな」


「うしわか?」


「俺の兄弟子だ」


 アインは苦笑した。


「はあ……」


 とリリィ。


「元より才能はあったが、それ以上にアインは愚直すぎる。それがこの際の強みだな」


「愚直が……ですか?」


「ま、嬢ちゃんには関係ないじゃろ」


「ですか」


 その間にもアインは木刀を振り続ける。


「そもそも鬼一様はお幾つで?」


「さあてなぁ」


 惚けているわけではない。


 悠久の刻を生きている鬼一は本気で自分の年齢を数えていない。


「気にすることでもなかろう」


「しかしてアイン様のお師匠様ですよね?」


「それが?」


「こちらの世界に無い概念を持ち込む辺り一体何者やらと……」


「単なる世捨て人じゃ」


 カラカラと鬼一は笑った。


 朝日が昇ると、


「あー……疲れた」


 アインが素振りを止めた。


 リリィが近寄ってくる。


「どうぞアイン様」


 タオルを差し出す。


「どうも」


「ご入浴の準備も致しております」


「ありがとな」


「アイン様のためですもの」


「なるほど」


「洗髪洗体はお任せください」


「じゃあ任せる」


 そういうことになった。


「ふい」


 そんなわけでアインは全身を清めて風呂に入る。


 温めのお湯だ。


 汗をかくだけかいた後のゆったりとした風呂事情。


 リリィも裸でアインの隣に腰掛ける。


 二人揃って湯船に浸かるのはもはや今更だ。


「朝食はどうしましょう?」


 リリィが問う。


「また姿を消す」


「お仕事……ですか?」


「そ」


 肩にパシャッと湯をかけるアイン。


「大変ですね」


「慣れた」


 サックリと言う。


 半分ほどは嘘だが。


 レイヴに付き合ってうんざりするのもリリィと混浴する以上に今更だ。


「武闘大会も大詰めですね」


「次が準決勝か……」


「お強いアイン様が私は誇らしいです」


 アインの腕に抱きついてギュッと乳房を押し付けるリリィ。


「別にお前のために強くなったわけでもないしな」


 アインは動揺しない。


「剣の術理は無手にも通ずるのですね……」


「師匠レベルになると得物のリーチが短いほど実力を出せるらしいぞ」


「それはつまり……」


「まぁ無刀を極めてはいるらしい」


 基準世界ではな。


 そう心で補足する。


「アイン様はまだその域には?」


「まだ剣持った方が強いな」


「それでも十分すぎると思うんですけど……」


「冷静に考えろよ」


「冷静に?」


「犯罪者やケイオス派……魔族相手に魔術の使えない俺が抗しうるには何が必要だ?」


「剣……ですか?」


「そういうことだ」


「アイン様は傭兵にでもおなりに?」


「馬鹿親父に振り回されなきゃまず間違いなくその辺りに落ち着いたろうな」


 そもそも、


「何で俺は学院に籍を置いているのか?」


 そこから疑問だ。


 アインにとっては。


「でもおかげで私はアイン様に巡り会えました」


「可愛い可愛い」


 腕に抱きついているリリィの頭をもう片方の手で撫でる。


「良いお嫁さんになるな」


「あう……」


 そういうことだった。


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