第94話:学院祭ときどきイビルパニック11
続く四回戦も突破するとアインは教会に引き籠もる。
代わってアイスが現れレイヴと合流した。
「状況は?」
「芳しくないよ?」
アイスの問いにレイヴが答える。
ケイオス派についてだ。
「誰それって奴から状況は聞けなかったのか?」
「聞けたよ?」
「誰だ?」
「ソルト。たしか魔術学院の手芸部の部長とか」
「ああ、アイツ……」
ファッションショーの準備で顔を合わせた生徒である。
「芳しくないってのは?」
「昨日からソルトは姿を消したらしい」
「あー……」
アイス改めアインは聞いていた。
ソルトは魔術が不得手だと。
「ケイオス派か」
「十中八九だろうね」
「そうすると今度はソルトの経緯を調べにゃならん……か」
「それは審問官の仕事でしょ」
「だな」
そんなわけでアイスとレイヴは喫茶店でまったりした。
「ここに来てケイオス派が活発になるとはね……」
「狙いはやはりレイヴか?」
「にしてはアルトもキネトもアイン卿を狙ったけど……」
「恨みを買った覚えは無いがなぁ……」
砂糖無しのチョコレートを飲みながらぼんやりとアイス。
「二人ともに決闘して地を舐めさせたんでしょ?」
「記憶にござらん」
「まぁらしいっちゃらしいけど」
紅茶を飲んで半眼になるレイヴ。
「俺を殺して誰が得するんだ?」
「さぁてねぇ?」
それっぱかりはソロバンで弾けない。
というかケイオス派はソロバンを弾いての行動はしないのだが。
チョコレートを飲む。
「とすると……ふむ……」
アイスはボーッととりとめのない思索にふける。
「何か名案が?」
「無いな」
「でっか」
「とりあえずソルトの確保か」
「連絡待ちだね」
「狙いは……」
「私かアイン卿よね」
どちらにせよ不敬罪には違いないのだが。
その上でドタバタと焦る必要がない程度にはレイヴにしろアインにしろ規格外という自負ありきの話でもある。
「師匠は捉えていないのか?」
「無茶言うねぃ」
「何か師匠を見ると何でもありに思えてくるからな……」
「探すことは出来るが仮にも学院は都市国家じゃぞ? 把握できんとは云わんが対処療法でも十分通ずるじゃろ」
「ま、な」
チョコレートを飲む。
「でも審問官の数もあまり揃えられないし」
それは確かだ。
代行師ほどじゃないにせよ審問官とて手軽に量産できる物では無い。
厚い信仰心と特級の戦力とを持ち合わせた者だけが成れる一種の選民職業だ。
教会とケイオス派の戦いは歴史を紐解くほどに長いが、この世界において必要不可欠でありながら希少な対抗手段が審問官である。
奇しくも鬼一が言ったとおり都市国家を網羅するには面倒が付き纏う。
「じゃあどうする?」
アイスが問うた。
「とりあえず賞金首?」
「まぁそうなるよなぁ」
市民の協力を得られるならこれ以上はない。
「結果論で云えば容易くかたは付くんだけど、暴走されるとそれはそれで……」
「傭兵ギルドは?」
「既に動いてるよ」
「敵うと思うか?」
「そこは自己責任」
博愛主義者にあるまじき暴言だった。
もっともレイヴのそんな切れ味鋭い皮肉はアイスも慣れたものだが。
レイヴはケーキを頼むとサクリとフォークで切り崩す。
「後は時間の問題。それよりデートしよ?」
「お前はほんなこつ……」
とはいえ深刻に考えていないのはアイスも同じだが。
「焦ってもしょうがなかろう」
とは鬼一。
「というか焦っていないじゃろうが」
「ふふふ」
「ははは」
空笑いのアイスとレイヴだった。
「魔族よりタチが悪いの」
鬼一に言えたことではない。
「じゃあとりあえず」
と仕切り直し。
「何処行く?」
デートのお誘いだ。
それからアイスとレイヴは学院街を歩き回った。
道行く人からは有り難がれ、たまに祝福を施し、アイス好みの定食屋で食事をしたり市場を冷やかしたり。
ケイオス派の脅威は存分に理解していながら、
「で?」
と言えるのがアイスとレイヴの強さである。
そんなこんなでデートを楽しむ。
レイヴはアイスを気に入っているし、アイスもレイヴの素顔の方は気に入っている。
特に深い関係になるつもりはアイスにはないが、
「まぁ祭だし」
という理論で防備を固めた。




