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第93話:学院祭ときどきイビルパニック10


 学院祭武闘大会予選三回目。


「ようやく会えたな」


 対戦者はそう言った。


「?」


 とアイン。


 対戦者は青年だった。


 アインの記憶野にはあるが記憶にはない。


「誰?」


 そう問うのも無理はなかった。


「この俺を忘れたのか!」


 怒気と殺気を放つ青年だったが、


「申し訳ない」


 アインに心当たりはない。


「キネトだキネト!」


 教会で礼拝しないアインに喧嘩を売って返り討ちにされ、報復で決闘を行ないまたしても返り討ちにされた青年である。


 アインにとっては羽虫に纏わり付かれた程度の感慨でしかなかったため、


「ほう。キネトさんですか」


 嫌味で敬語になる程度の対応しか取れなかった。


「ぶっ殺してやるからな!」


 そう言って青年……キネトは定位置に付く。


「無理だと思うがなぁ……」


 アインは頬を掻きながら定位置につく。


 司会進行がトークで場を盛り上げ、


「試合開始!」


 と宣言した。


 同時に、


「おおおっ!」


 キネトが全力でアインに襲いかかる。


 我武者羅。


 一言で云ってソレだろう。


 アインは冷静に相手を見ていた。


 どこに力を入れているか?


 体のバランスの軸が何処にあるか?


 結論として、


「素人だな」


 そんな感想。


 ガタイは良いが修練は積まれていない。


 ほとんど街のチンピラと同義だ。


 そこで一つの疑問が提議される。


「では何故チンピラ程度が三回戦まで勝ち残っているのか?」


 答えはすぐに出た。


 観察した筋力以上の剛拳がアインを襲ったからだ。


 紙一重で避ける。


 足腰を鍛えている様子も無いのに、アインが脅威に感じるほどの剛拳。


 遅れて風がアインの髪を撫でる。


 カウンターで拳をキネトの腹部に打ち込む。


「っ?」


 完全に捉えたはずなのに返ってきた手応えはゴムの塊のようなソレ。


 同時に後ろに下がる。


「あーっと……」


 アインは高速で思案していた。


 鍛えられていない相手であるのは見ての通りだが、さっきの一連のやりとりで強敵と捉えて不思議ではない感触を得たのも事実。


「何をした?」


「何の話だ?」


「ドーピングか?」


「まさか」


 キネトは粘つくような笑みを浮かべる。


「俺の力だ」


「さいか」


 そしてまた猛然と襲いかかってくるキネト。


 アインはギアを一つ上げた。


「殺しゃしないが痛い目には遭って貰うぞ」


 悪役の台詞を放って加速するアイン。


 剛拳を捌いてキネトの伸びきった腕を取ると、そのまま割り箸でも折るようにキネトの骨を折った。


 グキリと音がして完全に使い物にならなくなる片腕。


「勝負有りだな」


「まだだ!」


 もう片方の腕でアインに襲いかかる。


 スルリと避けるアイン。


「無理するな。降参して治癒魔術かけてもらえ」


「そんなものは要らん」


 そう云って折れた方の腕で剛拳を振るう。


「は?」


 アインの思考と肉体が完全に不一致となった。


 思考は困惑。


 肉体は適確。


 キネトが折れたはずの腕を万全の状態で振るったのだから混乱もする。


「おいおい。ルール違反だろ」


「俺はお前を殺すためにこの場にいるんだよ!」


「ケイオス派か!」


 わざと大きな声で警戒の声を出すアイン。


 見物客に戦慄が走った。


 昨日に引き続きまたしてもケイオス派の横暴。


「殺す! 殺す! 殺す!」


 肉体強化と治癒の魔術をかけてこと素手の戦いでアドバンテージを取っているのだ。


 明確な反則である。


「何で俺ばっかりこんな目に遭うんだ?」


 それは誰にも分からない。


 アインはキネトの右ストレートを頬にかすらせて躱し、肘をキネトの顎に打ち込む。


 鍛えられていない体には致命的だ。


 アインはキネトをあっさりと気絶させた。


 意識がなければ(例外を除いて)魔術も使いようがない。


 イレギュラーな事態ではあったが、事は穏便に済んだ。


 審問官が現れキネトを回収する。


「ていうか……」


 事ここに来てケイオス派が溢れている現状は不安さえ呼んだ。


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