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第90話:学院祭ときどきイビルパニック07


 そんなわけでアイスとレイヴは五つ星ホテルに泊まることになった。


 鬼一の思念会話を通してリリィに息災であることは告げてあるので、留守を任せるのに不備はなかった。


 問題は、


「痴女め」


 レイヴだった。


 鬼一の光学変身はホテルのスウィートルームに入るなり解いてある。


 今は一介の学生……アインである。


 尤も資料に無いだけでアインも立派な枢機卿ではあるのだが。


 当人は一般市民を主張している。


 虚しい主義のなれの果て。


 で、


「お前は何時も何時も……」


 アインは風呂に入っていた。


 レイヴと一緒に。


 性欲を処理しているため一時的に不能には陥っている。


 ついでに言えば起伏のないレイヴの体にはあまり欲情もしない。


 それでも裸の女子と一対一で入浴すると云うことは精神的に疲労を覚える。


「アインは淡泊だね」


「生憎とな」


「毎度毎度だけど欲情しないの?」


「そらまぁ健全な男子ではあるが教皇猊下に手を出すほどお馬鹿じゃねえよ」


「アインにならいいのに……」


「恐悦至極」


「子ども作ろうよぅ!」


「クイン家が傾くわ!」


「気にしてない癖に」


「…………」


 それはその通りだった。


 成り行き上魔術学院に通っているとは言え、


「お家事情に興味は無い」


 がアインの本音だ。


「じゃあいいじゃん」


「どんな論理的帰結だ?」


「私はアインが好き!」


「はあ」


 ぼんやりと受け止める。


 チャプンと湯船に肩まで浸かるアインだった。


「ほらほら、おっぱい」


 乏しい胸を張るレイヴに、


「もうちょっと揉み応えのあるよう成長したらまた誘ってくれ」


 あくまでもアインは興味を示さなかった。


「夜の市には出る?」


 ちなみに学院祭三日間は昼夜問わず盛り上がる。


 子どもは寝る時間だが、大人はランタンに火を点けて酒の時間だ。


 中には学院祭の間、徹夜して楽しむ人間も出るほどである。


「俺は寝る」


「私と?」


「一人でだ」


「添い寝しようね」


「何を企んでる?」


「不本意だよぅ」


「本当にそうなら文句はないが」


「腕枕くらいならいいでしょ?」


「その程度ならな」


「アインの筋肉はうっとりするよ」


 ツツイーッとアインの胸板を人差し指でなぞるレイヴ。


「別段お前を喜ばせるための物じゃないが」


「だから良いんじゃん!」


「でっか」


 ほとんど諦観の域だ。


「明日も武闘大会だね」


「まぁな」


「勝てる?」


「相手によるんじゃないか?」


 事実ではある。


 一般論でもあるが。


「優勝するつもりなんでしょ?」


「そのつもりでは臨むが……」


「なら勝てるよ」


「その根拠は?」


「アインは最強だし」


「禁術は使えないのにか?」


「体術だって鬼一に仕込まれたんでしょ?」


「まぁな」


 それは本当だ。


「武器を選ばない」


 それは鬼一がアインに伝授した闘争の前提条件だ。


 当然そこには無手も含まれる。


 であるから武闘大会でも無難に勝ち進んだのだが。


「問題はそこにはない」


 アインはぼんやりと不安を覚えていた。


 どうしても武闘大会に出る以上、アインでなければならないときがある。


 そしてアイスはともあれアインは魔族に狙われている。


 武闘大会においては絶好の機会だ。


 魔族。


 あるいはケイオス派。


 ほとんど近似する両者だが、どちらにせよアインの嫌いな面倒事だ。


「なんだかね……」


 お湯に疲労を湿らせて、徐々に浮世の垢を落とすアインだった。


「アインの格好良いところを見たい」


 レイヴはそう言う。


 リリィと気持ちは一緒らしい。


 当人の苦労を考えてないだけリリィより無責任ではあるが。


「教皇猊下のご期待に添えればな」


 アインは皮肉った。


 結局戦いは相対的な物で、


「絶対の敗北」


 は存在しても、


「絶対の勝利」


 は存在しないのだ。


 その日はレイヴと添い寝して過ぎていった。


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