第89話:学院祭ときどきイビルパニック06
教会の懺悔室からアイスが現れた。
白い髪はシルクのようで、その長さは流水を思わせる。
白い瞳には超然とした彩が乗っており、人格者の雰囲気を演出している。
なお整った顔立ちは美少女のソレなのだが、先述したように枢機卿としての覇気は些かも損なわれていない。
教会に礼拝に来ている信者たちが有り難く拝む程度には貫禄があった。
「中身は俗物じゃがな」
とは鬼一の言。
「やっかましい」
アイスは思念で突っ込む。
「概ね師匠のせい」
とはアイスの言葉だが、
「お前が言うか」
と鬼一は反論した。
これも何時ものこと。
「アイス!」
レイヴが突っ込んできた。
そんなレイヴの額に手を当てて突進を止めるアイス。
「なんでよう」
「あまり変な趣味を疑われたくないからな」
「百合百合?」
「忌憚なく言えば」
「ま、とりあえず夕食はどうする?」
「寿司」
そういうことになった。
アイン行きつけの店にアイスとレイヴが顔を出し、店員の度肝を抜いた。
緑茶を飲みながらアイスとレイヴは注文する。
「結局俺はお前のホテルに泊まるのか?」
鬼一を通した思念の会話だ。
「五つ星だよ?」
「あまりリリィをほっとくのもなぁ」
「じゃあアイス……じゃない……アインの寮に泊まろう」
「…………」
反論はしない。
戯言と理解できているからだ。
アイスとレイヴがアインの寮に泊まれば関係性が疑われる。
その程度のソロバンも弾けないほどレイヴは劣っていない。
ウニをあぐり。
「ならアインを枢機卿に」
「もうなってる」
「公表しよう」
「嫌だ」
即答。
微塵の躊躇もない。
「枢機卿の面倒さ」
についてアイン並びにアイスは十分に理解している。
そうであるため表裏の仮面を使い分けているのだ。
「それよりアインを宮廷魔術師にしてくれ」
「無理」
何時ものやりとり。
「何で実論的じゃない神のために俺が働かにゃならんのだ」
「そうは言ってもねぇ……」
「何か?」
「アインより強い存在って居ないし」
「お前が言うか?」
「私はほら……」
イクラをあぐり。
「スタートゲイザーだから」
「チートめ」
「否定はしないよ」
赤身をあぐり。
「仮に魔王が降臨してもアインなら一手で消滅できるでしょ?」
「逃げるという選択肢を排除するならな」
「禁術って便利ね」
「本当にそう思っているなら問題だな」
「問題がサンドペーパーであることを除けばアイスは最強だよ」
「恐悦至極」
心にも無いことを言ってのける。
「私は本気だよ?」
「で、それがどうなる?」
「いずれアインを枢機卿に正式に迎える日が来る」
「それはそうだな」
「宮廷魔術師より有意義じゃない?」
「さてな」
サンマをあぐり。
「鬼一はどう思う?」
「特に立場には拘泥しないんじゃが」
「でもアインには神威代行が適してると思わない?」
「当人次第じゃろ」
「さすが師匠」
「ものぐさ太郎じゃからの」
「何だと師匠」
「反論があるのか?」
「ないけどよ……」
面倒事を嫌うアインとアイスではある。
しかしてアインは面倒事に好かれる星回りでもあるのだ。
ファッションショーに武闘大会……。
さらに高所から見れば、魔族との血みどろの戦いや家の相続についての条件など……数え上げればキリが無い。
どうしてかアイン並びにアイスはその手の面倒事に事欠かない。
当人にとっては面倒事で片付けられても、場合によっては一国を揺るがす案件にまで手を染めたこともある。
決定論としての運命を受け入れているアインであるから、
「付き合うに吝かではない」
との結論に至ってはいるが、
「茶を飲んで呑気に過ごしたい」
という願望も常に持ち合わせているのだ。
レイヴに気に入られている以上、安息の時は遠いのだが。
それをアインは誰より熟知していた。
鯛をあぐり。




