第84話:学院祭ときどきイビルパニック01
そんなわけで学院祭が始まった。
パンパンと空砲が鳴り、ワッと学院が盛り上がる。
既に出店や催し物の準備は終わっている。
これから三日間は盛大な祭の日である。
学院も学院街も祭の熱に浮かれる。
「騒がしいな」
アインはイカ焼きを噛みながらそんな論評。
ちなみに今はリリィと約束のデート中。
約束していたため本来のお務めは放棄している。
当然レイヴの護衛を、だ。
「アイン様は武闘大会に出るのですよね?」
「お前も承知してるだろ」
ガジガジとイカを噛む。
「アイン様がお強いのは承知しておりますが」
「なら気にすんな」
特に遠慮や憂慮とは縁の無いアインである。
とある条件を除けば……ではあるが。
三日間に跨がって行なわれる学院祭。
トーナメント形式であるため初日から武闘大会は行なわれる。
参加者は六十四人。
初日で十六人までふるい落とす。
二日目に、四人までふるい落とす。
そして三日目が準決勝と決勝の日取りである。
ファッションショーは三日目の午後。
なので予定がかち合うことはない。
こちらの事情についてもレイヴとライトには告げてある。
そんなわけで予選が始まるまではリリィと約束のデートをするのが常道と云うものだった。
イカ焼きに続きたこ焼きを食べているアインに、
「アイン様は一神教を信仰していないんですよね?」
「半分正解」
「?」
「人格を持つ超越者の存在は信仰していない」
「装置と云いましたものね」
「そゆこと」
「ここがフラスコの中に造られた準拠世界とも」
「それもそゆこと」
「つまり?」
「全知全能は有り得ないとしても世界の創造者としての神の存在は認めているさ」
「…………」
「聖術がそれを如実に現わしている」
「せいじゅつ?」
「神媒体の記録から演算能力を借りた魔術を指すな」
「かみばいたいのきろく?」
「ともあれ世界を運営する凄い装置のことだ」
「聖術とは」
「説明が面倒」
「本当にこの世界は作り物なのですか?」
「だって有り得ないだろ」
「何がでしょう?」
「血統による能力の伝承。および精霊石の存在」
「?」
「ってなるよな」
アインはたこ焼きをほむほむ。
「そもそも何ゆえ血統で魔術の素養が決まると思う?」
「それはまぁ親の才能を受け継ぐのが真っ当だからではないですか?」
「小説家の子どもが何の修練もなしに小説家になり得ると思うか?」
「む……」
「音楽家でもいい。軍人でもいいさ。優れた血統とやらが能力の引き継ぎをすると本気で思えるか?」
「当人の努力次第ですね……」
「そうだ。身体的特徴は親に順ずるが能力的特徴が親に順ずると云うことは有り得ない。が、魔術は血統で決まる。これもまた否定できない。ファーストワンという例外はあるがな」
「ふむ……」
「むしろ例外であるファーストワンが即ち世界の都合を否定する者だ。要するに魔術師イコール貴族という通念を破壊する逆説的存在だからな」
「では何故一般的な魔術師の素養は血統で決まるのでしょう?」
「神様の趣味」
あっさりと最短距離でアインは言い切った。
「要するに魔術を高尚な物とするための世界設定を神様が取り繕ったんだ。そりゃなんたって神様だ。その辺の構造は弄り放題だろ?」
「鬼一様も同じ意見で?」
「然りじゃな」
鬼一も端的に肯定した。
「精霊石については?」
「魔力が如何な物かはこの際議論しないとして……」
アインはたこ焼きをほむほむ。
「そのエネルギーを溜め込む宝石についてどう思う?」
「そういうものじゃないのですか?」
「鉱物は本来一定の原子配列と化学組成を持つ物質だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「原子? 化学?」
「天然のパズルを想定すればいい。こうこうこういう風に組織だって構築されています……っていうのが鉱物の定義だ」
「はあ」
「さて、そんな単純構造の鉱物がどうやったらエネルギーを蓄える倉庫になれるって云うんだ?」
「むう」
「つまり魔術師の血統も精霊石の構造も物理的には有り得ないんだよ」
「結論は何でしょう?」
「要するに魔術を文明の下地に置きたがった神様の都合の産物だろう」
「なるほど」
有耶無耶ながら否定の余地はないアインの弁舌だった。
言い終えてアインはたこ焼きをほむほむ。
そんなこんなでアインとリリィはデートを続ける。
アインは淡々と、リリィは微笑みながら、それぞれ思い出を構築するのだった。




