第83話:アイス枢機卿の憂鬱16
レイヴ教皇猊下が教会に顔を出した。
「あなたに神の栄光を」
礼拝に来た参列者はいつもの三倍増し。
教皇から祝福の言葉を賜ろうと多くの人間が押しかけていた。
アインも教会に居た。
ちなみにリリィも。
とりあえず光学変身によるアイス枢機卿を解いているアインである。
一応審問官たるライトがいるため問題は無い。
というかむしろレイヴを傷つけることの出来る人間が居るのならば、そっちの方こそ見てみたいアインだった。
「結局ケイオス派の洗い出しは?」
「エルザとソルト以外は……」
「まぁ基本的に人海戦術が必要な類だしな」
時間が解決する類の問題でもまたあるのだが。
「教皇猊下の護衛はいいのですか?」
「殺しても死なない類の人間だからほっとけ」
アインは頭の後ろで指を組んで椅子にもたれかかる。
「そうは仰いますが……」
「元よりケイオス派の一人や二人程度ならお前でどうにでもなるだろ」
「猊下は怠慢です」
「知ってるよ」
皮肉が通じないのもアインの醜点だ。
「レイヴ様」
泣き止まない赤ん坊を抱きかかえた女性がレイヴの前にて膝をついた。
「是非ともこの子に祝福を」
「元気な子ですね。名は?」
「スルギと申します」
「良き名です」
レイヴにしては爽やかな笑顔を見せる。
営業スマイルだが。
「今の内にいっぱい泣きなさい。その涙が涸れ果てることがないよう神に祈りましょう。スルギ……あなたに神のご加護があらんことを」
そう云ってレイヴが赤ん坊の頭を撫でると赤ん坊は泣くのを止めた。
「ん。いい子いい子」
「素晴らしい……」
「奇蹟だ……」
「さすが主の代弁者……」
そんな感嘆がアインの耳にも聞こえてくる。
レイヴを尊敬の目で見る信者多数だった。
「そこまで有り難がるもんかね?」
「猊下。あまり早まったことは……」
「誰も聞いてねえからいいだろ」
アインとライトの会話は鬼一を通した思念チャットである。
「やっほーい」
そこにレイヴが参戦した。
「どうだった私の祝福」
「素晴らしゅうございました」
ライトは感嘆と云った様子だ。
「お前ならそうだろうな」
アインは平常運転。
「アインは不敬罪」
「やれるもんならやってみろ」
「それは無理だけどさぁ」
「こっちの台詞だがな」
「お互い攻撃より防御の比率が大きいもんね」
「そゆことだな」
アインは口をへの字に歪めた。
「で、結局アイスの行動予定は?」
「暇があればレイヴの護衛」
「それ以外は?」
「アインとしての予定が詰まってる」
「教えて」
「ファッションショーと武闘大会」
「面白そう!」
レイヴの声がキラキラ光った。
物質界で見れば礼拝客に祝福を授けてはいるのだが。
「後はリリィとのデートだな」
「私もアインとデートしたい!」
「無理だろ」
「無理じゃないよ」
「観念論で云ってるんだよ」
「アインはノース神国の大貴族でしょ? なら当然ノース神国の教皇と仲が良くても問題にはならないんじゃない?」
「なら俺を宮廷魔術師にしてくれ」
「それは無理」
「ははは」
「ふふふ」
不穏な笑い声が鬼一を通して発せられる。
「あわわ」
とライトが慌てるが、こんなのは何時ものことである。
少なくとも数年前からアインおよびアイスのレイヴに対する対応はさほど変わっていない。
「楽しみね。学院祭」
「そりゃ重畳」
「アイスはデートの時間を確保してね」
「暇があればな」
「ふふふ」
「ははは」
また不穏に笑う二人。
「アイン猊下……」
「何でがしょ?」
「不敬に過ぎます」
「ま、堪忍が堪えきれなくなれば殺せばいいだろ」
アインはサクッと言う。
「出来れば、だがな」
くっくと笑うアイン。
「ミスターサンドペーパーは本当に……」
「化け物度合いではお前に勝てんがな。ミススタートゲイザー」
「ふふふ」
「ははは」
終始そんな感じ。




