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第81話:アイス枢機卿の憂鬱14


 そんなわけで魔術学院は震撼した。


 さもあろう。


 一神教のトップ……教皇猊下が現れたというのだからその衝撃は如何ほどのものか。


 さらに剣聖として名高いアイス枢機卿猊下までいるのだ。


 もはや崇拝や信奉を超えて狂信の域である。


 教皇レイヴは幼い銀髪ロリ。


 アイス枢機卿は白いロングへアーの女子。


 そしてどちらともに顔の造りが有り得ない。


 異性同性問わず惹き付ける魅力を持っている。


 アイスは自身の幻影が煌びやかに輝く様を客観視していた。


「なにが有り難いんだか……」


 ボソリと呟く。


「そら一神教の支配する世界でその教皇と枢機卿が居ればそうなるじゃろ」


 鬼一はいつも通りだった。


「いやさぁ。だってさぁ」


 豪奢な馬車から拝んでくる人間に愛想良く手を振りながら引きつった笑いを並行させる。


「アイスは本当に不信心者ね」


「人より現実見てるだけだ」


「そゆところ。可愛いな」


「お前もな」


 笑顔の二人だったが眼は全く笑っていない。


 だいたいアイスとレイヴの関係はこんな感じだ。


 そして学院の門を抜けると二人は馬車を降りた。


「おお……!」


 と感激する衆人環視。


「教皇猊下……!」


「枢機卿猊下……!」


「どうにかならんのか?」


 アイスは気づかれない程度に嘆息。


「かかっ。仕方あるまいよ」


 腰に差している鬼一が笑う。


 そしてレイヴとアイスは学院長室に向かった。


 途中で崇め奉られたが、アイスの胃を痛くする以外の効果は無かった。


 レイヴはもう慣れているため愛想良く振る舞う。


 そうやって憧憬の念をかろうじて受け止めながら進んでいくと、


「――フレイムランス――」


 そんな呪文が聞こえた。


 炎の槍がレイヴ目掛けて飛ぶ。


「っ!」


 が次の瞬間には双方の間にアイスが割って入った。


 居合い。


 抜刀された和刀が炎の槍を切り払う。


 アンチマテリアル。


 アイスの剣術にして鬼一の魔術。


「おおおっ!」


 と一人の青年がナイフを持ってレイヴに襲いかかる。


 当然障害物としてアイスがいるのだが。


「ナイフの握りから見て相手は素人」


 そうアイスは判断する。


 我武者羅に突っ込んできた青年のナイフに自身の和刀をぶつけると、アイスは巻き技を放つ。


 剣がしなり、青年の手にしたナイフは手からすっぽ抜けた。


 次の瞬間、


「……っ!」


 アイスの和刀が青年の首元に突きつけられる。


 チェックメイトだ。


「おお……」


 と感動が更なる感動を呼ぶ。


 剣聖アイス枢機卿。


 その剣技の一端は見惚れるに値した。


「殺せ」


 青年は諦めたように言う。


「いえ。殺人は禁忌です故」


 アイスは直情に放られて落下してきたナイフを器用につかみ取ると人のいない方向に投げ捨てる。


 そして鬼一を鞘に収める。


「それで?」


 とアイス。


「何ゆえこんな蛮行を?」


「神の使徒を称する貴様らが憎い!」


 青年は言った。


「母と妹が亡くなった」


 と。


「出産に際して母も妹になるはずだった新生児も死んだ」


 と。


「母は信仰に厚い信徒だった」


 と。


「幾度も幾度も安産を神に祈った」


 と。


「それなのに……!」


 青年は言う。


「神は母と妹を助けてはくれなかった」


 と。


「神なんか都合の良い幻想だ! お前らは空想を売って贅沢している貴族だろう!」


「否定はしませんよ」


 アイスは青年を抱きしめた。


「信仰の道に本来階級の差なんてありません」


 ギュッと強く。


「ただ自身に都合の悪いことだけを神のせいにすることは許しません。あなたの母と妹を奪ったのが神の所行なら今生きているあなたも神の所行でしょう?」


「……っ」


「清濁を含めて神の所行とするならともあれ不幸だけを取り上げて神を憎むのはいただけません」


 そして抱擁を解く。


「殺せ……」


「殺人は許しません。罪は贖わなければならないですが晴れて贖罪が済んだなら家族の分まであなたは幸せになってください」


「ご高説痛み入るな」


 鬼一が笑う。


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