第8話:国家共有魔術学院01
そして更に一年が過ぎる。
十六歳になったアインはリリィを立場上の従者として連れて魔術学院に入学した。
魔術学院。
書類上は否定されているが所謂一つの都市国家である。
正式名称は国家共有魔術学院。
北のノース神国。
南のサウス王国。
東のイース皇国。
西のウェス帝国。
この神王皇帝四ヶ国が出資しあって創った国際的教育機関。
それこそ国家共有魔術学院である。
その理念は単純にして明快。
「より強力な魔術師を創ること」
これだけ。
ノース神国は唯一神教の聖地であるため武力干渉は出来ないが、他の国は強力な武力を必要とする。
特に東西の国は国境紛争と大陸間戦争で大わらわ。
必然兵力の調達は第一義である。
そのため神王皇帝四ヶ国は同盟を結んで四ヶ国の国境が接している中央に国際的教育機関を創った。
そんな魔術学院ではあるから魔術がイコールで武力ととられがちである。
間違っているわけでもないが。
何せ優秀な魔術師であれば一人で砦を攻略することさえ可能だ。
魔術師は血統の関係上で生まれるため価値は希少であり、ニアリーイコールで貴族でもあるため、一般的に前線に立つことはない。
ただし数の暴力を一人で覆すことの出来る人材であることも確かなので、再度になるが神王皇帝四ヶ国は魔術学院を創設し強力な魔術師の育成を試みているのである。
と、ここまでなら問題なかったのだが、神王皇帝四ヶ国は魔術学院に未来有る魔術師の卵を送りすぎた。
当然ながら魔術講義のノウハウは魔術師にしか無理であるから高名な魔術師を一定数揃えなければならず、なお魔術の研鑽をするに最適の環境でもある。
で、あるため、
「宮廷魔術師になるより学院の研究室に所属したい」
と表明する魔術師も少なくない。
結果として強力な魔術師を学院は多様に保有することになり、嫌が応にも発言力が増した。
皮肉な話ではある。
書類上は国際的教育機関……つまり神王皇帝四ヶ国の財産ではあるが、その実体は独立した自治領のように振る舞う都市国家だ。
なお関税が緩いため神王皇帝四ヶ国の文化が流入して入り乱れ、市場の流動性は四ヶ国より大きくもある。
魔術師を優遇する都市ではあるが商人にとっても居心地のいい場所であり、都市国家として栄華を極めても居るのだった。
そんなわけでサウス王国から流入した文化である寿司を堪能しながらアインとリリィは昼食としていた。
魔術学院には単位はあっても学年や卒業はない。
魔術の素養を持つ者ならば誰でも入れる。
アイン以外は……と注釈はつくが。
必要な単位を取って魔術を研鑽する。
それだけだ。
そうやって魔術を磨けば学院の研究室や神王皇帝四ヶ国からアプローチがあり、前者なら研究生へと昇華、後者なら学院を退学して宮廷魔術師と相成る。
「面倒くさい」
それがアインの本音だった。
入学試験は無事にパスして学院生となったわけだが、此処から更に魔術を研鑽してノース神国の宮廷魔術師にならねばならないのだ。
そんな義理を果たす必要は無いが、その場合リリィに支障が出る。
結論として魔術師でもないのに、その真似事をする道化を演じなければならないらしかった。
ウニを頬張る。
「実際の所どうよ?」
とアインはリリィに聞いた。
「まぁ下手を打たなければバレないかと……」
リリィは比較的楽観論だった。
というか事実の指摘以上のものでもないが。
「別段魔術を使えなくとも支障は無いがなぁ……」
「それではクイン家の面目が立ちませんでしょう?」
「一銭にもならんがな」
えんがわを頬張る。
「運が無かったと諦めるんじゃな」
鬼一が皮肉った。
「まぁ……鬼一様の言う通りなのですけど……」
リリィも同意する。
「兄二人が馬鹿やったせいでこっちにしわ寄せが来た、と……」
「然りじゃ」
「ですね」
「反論して欲しかった」
真摯な言葉だった。
面倒はアインの嫌う言葉の一つだ。
「なぁ師匠」
思念で語りかけるアイン。
「なんじゃ?」
鬼一も思念で返す。
「禁術についてはどうすれば?」
「自重するしかあるまいて」
「そうなんだがなぁ……」
アイン本来の異能……禁術。
一般人どころか魔術師にも知られていない秘中の秘。
その凶悪性から禁忌の術法とされるため、教会協会の監視下に置かれる。
実際にアインは首輪のリードを握られている気分だ。
赤身を頬張る。
「アレを魔術と偽ることは?」
「無理筋じゃな」
鬼一の反論も当然だ。
禁術は偏に魔術とは真逆の理論だ。
であるため空間の推移を見て取れる術者にはバレこそしなくとも違和感を与えるのは避けられない。
違和感に違和感を積み重ねれば禁忌の領域に辿り着く魔術師が居ても不思議ではないのだ。
「やれやれ」
言葉としてそう言って、大トロを頬張るアインだった。
ちなみに学院生は学院内に限って領収書を持って事務にて決済すれば学院側が支払いを代行してくれる。
別段金には困っていないが領収書を受け取るアインであった。