第71話:アイス枢機卿の憂鬱04
そして閑話休題。
「ふむ……」
「ふえ……」
アインとリリィは手芸部のファッションのアイデアを覗いた。
ドレスからコスプレまで多種多様だ。
そんなアインに、
「ほい」
と部長……ソルトがウィッグを被せた。
黒髪ロングのウィッグだ。
「何だ?」
アインは困惑する。
「ふむ」
とソルト。
「似合うな」
感想は簡潔を極めた。
「何のつもりだ?」
アインの声は氷点下。
「こうまで愛らしい少年を飾るなら相応の演出は必要だろう? やっぱりこんな可憐な少年にはロングヘアーが似合う」
「喧嘩売ってるのか?」
「まさかだな」
アインが腰に差した和刀の柄を握ると、
「勘弁」
ソルトは両手を挙げた。
「参った」
のポーズだ。
「しかして愛らしいからシャウト様のお眼鏡にかなったのだろう?」
「不名誉だがな」
アインは不機嫌に吐き捨てる。
そうには違いないのだ。
「ともあれ」
とソルト。
「アインには女装で出てもらうよ」
「俺の意見は無視か」
「そこまで愛らしいのに女装しない方が勿体ない」
サクリとソルトは言ってのける。
「不名誉だ」
アインとしては他に言い様がない。
「しかし愛らしいね」
ソルトはニコニコ。
「いっそ俺と一夜を共にしないかい」
「だからそっちのケはねぇよ」
「シャウト様には心を許したのに?」
「許してねぇ」
そこは譲れない。
「というか」
アインはデザイン案をバサッと机に広げた。
「何で俺が女装前提で話が進んでいるんだ?」
「先にも言ったけどアインには女装が似合う」
「不名誉だ」
「事実ではある」
「…………」
そう云うことだった。
「お前、魔術師だろ?」
「だね」
「こんなことに能力を費やすくらいなら魔術の修練でも積めよ」
「俺は魔術の才能に乏しくてね」
ソルトは肩をすくめた。
茶髪が揺れる。
「一応貴族の出ではあるけど……」
皮肉気に云う。
「あまり期待はされていないよ」
「で、部長か」
「そういうことだね」
「はあ」
思念で嘆息。
アインのいつものルーチンワークだ。
「師匠」
「何じゃ?」
「どう思う?」
「判断材料が少なすぎる」
「さいか」
確かに解剖しても得られない案件であるためしょうがなくはあるのだが。
「さてどうしたものか」
「とりあえず」
と鬼一。
「教会の審問に任せるしかなかろう」
その通りではあるのだ。
「結局後手後手だな」
「しょうがないじゃろな」
鬼一は気楽なもの。
「ま、魔術が上手くないのだから何かで補うしかないんだな」
「それが手芸と云うことか?」
「まさに」
首を縦に振るソルト。
「それじゃ悲しくないか?」
「そうでもないよ」
ソルトは穏やかに笑った。
「君というシャウト様の遺産に出会えた」
「不名誉だがな」
「本当にシャウト様の行方は知らないんだね?」
「そう言った」
教会に回収されているのは確かだが、
「だから何だ」
がアインのスタンスだ。
「シャウト様が居ないと生きている意味が……」
「なんなら介錯してやろうか?」
「それには及ばないよ」
ソルトは極めて真摯にそう言った。
「きっとシャウト様は生きている」
と。
アインにしてみれば、
「突っ込む気力も無い」
に終始するのだが。




