第70話:アイス枢機卿の憂鬱03
一仕事終えると今度は手芸部に呼ばれた。
ファッションショーの件だ。
「こちらが部員のデザイン案なのですが……」
そう言って複数の紙をアインとリリィに手渡す。
アインとリリィが着る服のデザイン案である。
そこに、
「そっちがアインさんにリリィさんか」
男性が一人現れた。
美少年ならぬ美青年といった様子だ。
「あ、部長……」
部員が青年を部長と呼んだ。
要するに手芸部のトップなのだろう。
茶髪の美青年だ。
「こうして顔を合わせるのは初めてだな」
部長はアインとリリィに手を差し出した。
「よろしく」
握手をする。
「ところでアイン」
「何だ?」
「君はシャウト様に言い寄られていたね?」
「思い出させるなよ……」
苦虫を……な顔をするアインだった。
彼にとり、その件はかなり思い出したくないというか……忘れ去りたい記憶ではあったのだ。
「シャウト様が唾を付けたのも頷ける」
「…………」
「丁寧な顔の美少年だね」
「嬉しくないが……」
アインは表情を歪めた。
「シャウト様が行方不明になっているのは知っているだろう?」
「まぁ小耳には挟んだな」
「何処にいるか心当たりはあるかい?」
「ない」
というより、
「興味がない」
と云うべきか。
鬼一が思念で大爆笑。
「シャウト様の愛を拒絶した初めての人間と聞いているが……」
「そっちのケは無いんでな」
アインは肩をすくめた。
すると部長はアインの耳元にボソッと呟く。
「君が教会の審問官って本当かい?」
「んなわけねーだろが」
アインも小声で応じる。
「なら俺の疑いは別物ということか」
「そういうことだな」
アインは警戒を最大限にした。
「師匠……」
「じゃの……」
少なくとも嫌疑をかけられてしょうがない応酬だった。
「此奴がエルザと同様じゃ」
鬼一は言う。
要するに、
「アインの魔族に襲われた過程を見届けた人物」
ということだ。
「名は?」
「ソルトと言う」
「ソルトな」
そしてアインは、
「師匠」
と再度呼びかける。
「何じゃ?」
鬼一が問う。
当然思念だ。
「ライトと連絡を取ってくれ」
「さもありなん」
アインにも否やはなかった。
「なんでアインはシャウト様の愛を受け入れなかったのだ?」
心底不可思議。
ソルトはそう言った。
「だからそっちのケが無いだけだ」
アインは嘆息する。
同時に、
「何でしょう?」
ライトと思念で繋がった。
「エルザって云う教授とソルトって云う手芸部の部長の背景を洗ってくれ」
「それが先に言った……」
「ああ」
アインは頷く。
「そう仰るなら全力で」
「頼む」
アインは珍しく真摯にそう言った。
「いったいシャウト様は何処で何をされているのやら」
「教会に捕まったぞ」
とは言えないアイン。
ケイオス派は人類を否定する。
そうであるため教会と血みどろの争いをしているのだから。
「本当に知らないんだな?」
「俺はな」
嘘ではない。
が、真実でもない。
そんな綱渡りは今更だ。
「なら信じよう」
「理解を得られて良かったよ」
アインは謙虚にそう言った。
別段意図したことでは無いのだが。
「で、モーホーのお前はどうすんだ?」
「シャウト様の帰還を待つよ」
「でっか」
なら言うことは無い。
それがアインの本心だった。




