第7話:十年後06
数日後。
「それではアイン様」
リリィが教鞭をとる。
「魔術の講義をしたいと思います」
「お願いします」
ペッコリ頭を下げるアイン。
「今更じゃのう」
鬼一が茶々を入れてくる。
「黙らっしゃい」
思念でツッコむアイン。
「とは言っても特に難しいことでもないんですね」
あっさりというリリィだった。
「自身の望む現象を強く想像して魔力にイメージを注ぐだけですから」
「その魔力を召喚できないんだが……」
「ですから精霊石への干渉から始めましょう」
「…………」
首に巻いているネックレスに意識をやるアイン。
精霊石と呼ばれる魔鉱物が付与されている。
そしてその精霊石にはリリィの魔力が封入されているのだ。
「これがねぇ……」
アインはうんざりと言う。
実際の魔術の才能が無いため実感はわかなかった。
「とりあえず私が行使してみせます」
リリィはそう云うと、
「――ライティング――」
と呪文を唱えた。
光球が生まれた。
まばゆい光。
リリィが魔術師である証だ。
「どうせならリリィがクイン家を乗っ取れば?」
「無理です」
「何故?」
「宮廷魔術師は男性しか指名できませんから」
「さもあらんな」
疲労の嘆息をつくアインだった。
そうであるためアインを……無理を承知で魔術学院に通わせようとしているのだから。
「精霊石に意識を同調させてください」
「へぇへ」
首に巻いたネックレス。
そに飾られた精霊石に意識を集中させる。
コンセントレーションはアインの十八番である。
剣術においては精神の有り様が戦局を大きく左右する。
そのため精神修行は必須だ。
アインは鬼一からその辺りはみっちり仕込まれた。
精霊石に意識を集中。
「力を感じてソレに彩を付けるのが魔術です」
「了解」
手の平を差し出す。
「――ライティング――」
アインが呪文を唱えるとあっさり明かりの魔術は具現した。
「出来るじゃないですか……」
予想外。
そう言わんばかりのリリィだった。
「ま、小生の弟子じゃからな」
鬼一は誇らしげだ。
「ふえ?」
アインでもリリィでもない第三者の声にリリィは狼狽した。
「だ、誰?」
困惑するリリィに、
「師匠はまた……」
うんざりするアイン。
「良いではないか。長い付き合いになるのじゃ。小生くらいバレても問題は無かろう」
「そうだがな」
「えーと?」
事態を把握できていないリリィ。
アインは黒衣の衣装……その腰に差した和刀を指し示す。
「師匠はインテリジェンスソードなんだ」
「インテリジェンスソード……」
意志を持つ剣。
そんなマジックアイテムを指す。
「今まで謀って悪かったの。小生からも謝罪しよう」
カラカラと鬼一は笑う。
「師匠は人が悪いからな」
アインは気疲れしていた。
「インテリジェンスソードが師匠なんですか?」
リリィの言も当然。
「ま、剣術の師匠だよ」
サクリと言ってのけるアインだった。
「そういえば」
とリリィは過去を反芻する。
アインが朝早く起きて素振りをしたこと。
昼は筋力トレーニングで体力を使い果たしたこと。
即ち鬼一がアインの剣の師であること。
黒衣の腰に差した和刀が師匠というのなら納得がいく。
「素晴らしいお師匠さんなんですね」
クスリとリリィは笑う。
「ねじ曲った性格を除けばね」
アインは皮肉る。
「心外じゃの」
鬼一は不満げだ。
「お師匠様に名は有るんですの?」
問うリリィに、
「一応ね」
とアインが答える。
「鬼一法眼という。鬼一と呼んでくれ」
「鬼一様ですね」
「然りじゃ」
鬼一は満足げな声を出した。