第68話:アイス枢機卿の憂鬱01
「運営委員ですか?」
リリィはクネリと首を傾げた。
「ああ、エルザ教授に頼まれた」
「でもアイン様はファッションショーに武闘大会にとお忙しいはずですが……いったいどういう経緯で……」
「書類の整理を手伝ってほしいんだと」
「その程度なら……大丈夫でしょうか……?」
リリィは首を傾げていた。
ともあれ法被を贈られて晴れて二人は運営委員に組み込まれてしまうのだった。
「ところで今日の夕餉は?」
「蕎麦の予定ですけど」
「良好良好」
そんなわけで日の暮れる時間。
アインとリリィはざる蕎麦をたぐっていた。
「エルザの傍に居れば少しは何か進展するかね?」
アインは鬼一に問うた。
無論テレパシーで。
リリィに話しても意味は無いし、不安させて益も無い。
「向こうからアプローチしてくるならば案外黒かものう」
「怪しいことはこの上ないが……」
かといって疑わしきを罰すれば延長線上にあるのは人類大虐殺である。
教会が後手に回る原因でもある。
「もう一人は?」
「知らぬよ」
「だろうな」
特徴を聞いただけで背後が洗えるのなら苦労は無い。
「何か恨まれることをしたのかや?」
「しょっちゅうやってる気もするが」
呵々大笑する鬼一。
「その通りじゃ」
「…………」
アインは蕎麦をたぐった。
「お味はどうでしょう?」
リリィが問うてくる。
「文句なし」
アインはサムズアップ。
「光栄です……!」
嬉しそうに、
「えへへ」
と相好を崩すリリィ。
「可愛いのう」
「師匠が言うとセクハラに聞こえるな」
「いい加減抱いてやってもいいのじゃないか?」
「俺と居てもリリィは幸せになれないから」
「そう決めつけたものでもないじゃろう」
鬼一は思念で嘆息した。
「きさんは少し自虐的じゃ」
「業が深いもので」
「世界全てを敵に回せるじゃろ?」
「教皇猊下がいるから無理」
「ああ……」
それはその通りだった。
「厄介じゃの」
「そんな俺に誰がした?」
「小生は教えただけじゃ。修めたのはきさんの力量じゃろう」
「偏に感謝してるさ師匠」
「うむ。良きかな」
カラカラと鬼一は笑った。
アインは蕎麦をたぐる。
「一応こっちが抑止力だとはバレてないよな?」
「そのはずじゃが……」
三点リーダがこの際不安を呼ぶ。
「あまり目立ちたくは無いんだが……」
「アイスになるんじゃ」
「嫌だ」
そっちの方が面倒なのは既に勝手知っているアインである。
「麺汁は自作?」
鬼一と思念で会話しながらもアインはリリィとも四方山話に興じていた。
彼女の料理の出来栄えと、そこに籠る真摯な想いに関して言えば、アインの差し挟む否定はどこにも見て取れない。
「その通りです」
「そっか」
「何かしら不備が?」
「いや」
首を横に振る。
「美味いなって思って」
「あ、ありがとうございます」
プシューと頭の天辺から湯気を立ち上らせるリリィだった。
「罪な男じゃ」
「黙らっしゃい」
「それで」
とこれはリリィ。
「私はアイン様を補佐すれば良いのでしょうか?」
何のことかと言えば運営委員の仕事についてだ。
「むしろ俺の代行をしてくれ」
面の皮の厚いアインだった。
「アイン様のためなら幾らでも」
「愛い奴め」
「誰がセクハラじゃって?」
「さぁて?」
アインと鬼一は思念で皮肉の応酬。
美しい師弟愛である。
「もう一人はどうしたものかね?」
「順次やっていくしかあるまいよ」
「対処療法な」
他に手が無いのも事実だ。
「ミスサンドペーパー」
「うるさい」
アインは立てかけていた鬼一を蹴った。
「暴力反対」
「やかましい」




