第66話:学院祭のしがらみ10
決着がつき控え室に戻ると、
「アイン様」
リリィが出迎えてくれた。
「な?」
とドヤ顔のアイン。
「怪我の一つもしなかったろ?」
全てはキネトの判断ミスではあるのだが。
「無事に戻ってきてくださって……それだけで私は感無量です」
「リリィは心配しすぎだ」
「アイン様の愛人ですもの」
「そういやそんな設定だったな」
軽口を叩くアイン。
元々余裕は多分にある。
何せアインがしたことは敵の剣を少し避けて掌底を放っただけだ。
これで疲労しろという方がどうかしている。
そこに、
「生徒アイン!」
一人の青年が現れた。
控え室には鍵が掛かっていないため入ろうと思えば誰でも入れるのだが。
生徒は学院祭用の礼服……法被を着ていた。
それだけで運営委員だとわかる。
「何の用だ?」
胡散臭げにアインは尋ねる。
ロクなことじゃないのは直感として理解する。
「君は武術を習得しているね?」
「はあ」
正確には武術ではなく剣術なのだが、
「否定してどうなるものでもない」
とアインは言葉を封じ込めた。
「そんな君に話がある」
「聞くだけ聞こうか」
「学院祭の一環として武闘大会を開催する」
「…………」
沈黙。
運営の言いたいことを正確に理解したためだ。
「最後の掌底は何だい?」
まるで、
「鎧を無視して攻撃したような結果だったが」
と運営。
「鎧抜き」
アインはサクリと言った。
「鎧抜き?」
「要するに鎧越しに相手にダメージを与える武術だな」
「ふむ」
「究極的には鎧越しに心臓を止めること目標とする」
「出来るのか?」
「理論上はな」
「そんな君にこそ武闘大会に出て欲しい」
「面倒」
「そう言わず」
「メリットねえし」
「神王皇帝四ヶ国から勧誘が来るぞ?」
「なるほど」
アインはしばし思案した。
元よりアインはノース神国の宮廷魔術師にならねばならぬ身だ。
色々としがらみがあるため、
「どうやって父親を諦めさせるか?」
と考えていたのである。
そもそも、
「猊下が承認するはずもない」
が前提としてある。
そう云う意味では、
「立身出世には良い口実かもしれない」
などと思う。
「無論、優勝すれば褒美もあるぞ?」
運営は甘い誘惑で誘う。
「なるほど」
一考の余地があった。
俗物的だが。
「というわけで登録して構わないね?」
それについての答えは後回しとして、
「リリィはどう思う?」
アインはリリィに問うた。
「あう……」
と困惑した後、
「ごっちゃです」
そんな回答。
「何が?」
「アイン様に危ないことをして欲しくありませんが……アイン様の格好良いところを見たいのも事実です」
「にゃるほど」
アインはそれだけで納得した。
「じゃあ武闘大会では応援してくれ」
「参加なされるので?」
「可愛い女の子の期待を背負えばな」
アインは苦笑する。
「大丈夫なんですか?」
「知らん」
さすがにそこまではアインも把握していない。
必然運営に視線が集まる。
「大丈夫だ」
運営は言った。
「あくまで武闘大会」
と。
「武器を用いない武術を競う場であるからな」
そういうことだった。
「ではアインを登録するぞ?」
「好きにしてくれ」




