第65話:学院祭のしがらみ09
そんなわけでそんなことになった。
元々絡まれたのはアインの方だ。
不信心者として罵倒され害を受けた。
別段気にすることでも無いが、
「白黒付ける」
と息巻いている相手には念仏を唱えるような物だろう。
一神教の信者に仏心が分かるとも思えないが。
そんなわけで教会に背中を押される形で決闘に臨むアインであった。
一対一の決闘。
ルールは単純。
致死以外の攻撃を認める。
魔術の使用は禁止。
以上。
元より学院生であるアインと一般市民である青年キネトは(まったくの間違いだが)魔術の如何が存在する。
アインは魔術を使えないが禁術もこの際対象だろう。
そんなわけで黒衣礼服にベルトを着けて鬼一を腰に差し決闘場に現れる。
既に青年……キネトはいた。
「アホか……」
アインは呆れた。
負ける気はサラサラ無かったが、ほとんど勝ったも同然の光景だったのだから。
キネトは全身を甲冑で固めていた。
魔術が使用できない以上、武器による戦いは必然。
そうには違いない。
その上で甲冑にて全身を固めるのは武器対策としては一考できる。
が、
「状況分かってんのかコイツ」
アインはそう思わざるをえない。
夏も盛りの季節。
太陽はさんさんと光と熱を地上に降らせていた。
アインは風の魔術の応用で涼風を生みだし冷気を確保していたが、当然キネトの方はそんな器用な真似は出来ない。
がキネトはキネトでアインに不満を持ったらしかった。
「巫山戯ているのか貴様」
そんな言葉。
アインの服装は学ラン。
鎧の類は一切無い。
仮にキネトの持っている両手剣の一撃を受ければ重症を免れないだろう。
「至極真っ当だが?」
アインには別の感想があったのだが。
「両者よろしいでしょうか」
司会進行がそう尋ねてくる。
「いつでも」
「俺もだ」
「では試合開始!」
司会がそう宣言した。
同時にコロシアムの観客たちがワッと沸騰した。
こと他人事ともなれば命のやりとりは娯楽に変わる。
アインに言わせれば、
「趣味が悪い」
ということになるのだが、
「ま、業じゃの」
鬼一はホケッと言った。
当然テレパシーで。
「さぁかかってこい!」
両手剣を構えてキネトが武威を放つ。
「嫌」
対するアインの反応は冷ややかの極みだった。
「何故だ!?」
キネトが激昂する。
「放っておいても勝てるしな」
アインは鬼一……和刀を鞘から抜かず背伸びをした。
「巫山戯るか!」
怒号するキネトだったが、
「文句があるならそっちからかかってこい」
アインは欠伸をしながらそう答えた。
太陽がジリジリと鉄の甲冑を温める。
おそらく全身に鉄を纏っているキネトは今灼熱地獄を味わっているだろう。
対するアインは学ランで、しかも魔術による冷気を手に入れている。
武器対策としてはキネトに一案があるが、状況を鑑みるにこの灼熱の季節に鉄で全身を固めれば酷く体力を消耗するのは必然だ。
なおキネトから攻めるのならば無駄に重い甲冑を着たまま走らなければならない。
語るまでも無いがソレには多量の体力を必要とする。
決闘に臨む姿としてはキネトの方が正しいのだが、あらゆる状況がアインの味方をしているのだった。
「…………」
アインは柔軟体操を開始した。
クイクイと体を解す。
「四の五の言わずにかかってこい!」
キネトが言葉で挑発するも、
「嫌」
けんもほろろ。
「むぐ」
ことここに置いて漸くキネトも自身の間違いに気づいたらしい。
全身に甲冑を纏えば立っているだけで体力を消費する。
アインの狙いもソレである。
であれば自分から動くしかない。
「おおお……っ!」
キネトは両手剣を振り上げてアインに襲いかかった。
超重量の甲冑を着ているため速度は遅く、剣術を知らないため剣閃も輝かない。
上段から振り下ろされた剣を、体を回転させることでアインは避けた。
二撃目は無い。
アインに向かって間合いを詰めて剣を振り下ろしたところでキネトの体力は尽きていた。
「じゃあトドメだな」
アインは刀を抜かずに掌底を放った。
衝撃の波が鎧を通してキネトに襲いかかる。
いわゆる一つの鎧抜きと呼ばれる技術だ。
「が……っ!」
キネトは吐瀉物を仮面の中で撒き散らして悶絶した。
決着だった。




