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第64話:学院祭のしがらみ08


「ん~」


 次の日。


 その朝食。


 アインは牛乳に浸ったグラノーラを食べていた。


 ザクザク。


「今日は決闘の日ですね」


「だな~」


 特に気負いもしない。


 全身で、


「面倒だ」


 と語っていた。


「本当にお怪我されないのですか?」


「まぁ色々あってな」


 そればっかりは確信的だが説明できることでも無い。


「ところで先日の全知の否定の件ですが……」


「量子力学な」


「それです」


「神がサイコロを振るか振らないかって話なんだが」


「サイコロを?」


「量子は基本的に確定しない状況下において説明されるモノだ」


「?」


「ってなるよな」


 ザクザク。


「仮に確定しても全知の観測によるならば以前までの状態を維持できない。それが量子なんだよ」


「?」


「ってなるよな」


 ザクザク。


「量子の講義はこの際おいといて……」


 ザクザク。


「たとえば道行く馬車を道の隅っこで眺めている人がいるとする。その人はそのままでは通り過ぎる馬車を見送るだけだ。万に一つも万事が起きない。なのに神の観測という奴は、そこに背中を押して人を馬車に轢かせる行為だ。当然干渉による未来の変更が起こるため、真なる意味で自然体の観測というものは成り立たない」


「要するに神が居る世界と神が居ない世界では未来が違うと?」


「そゆこと」


 ザクザク。


「つまり神は物事を観測することで観測しなかった未来を知ることが出来ない。神がサイコロを振らないのは、つまり六つあるサイコロの側面の内の一つしか知り得ないという限界の証明でもあるんだよ」


「むぅ」


 リリィは気難しげに悩んでいた。


「パンドラが唯一封じ込めた不幸。それが未来視だ」


「パンドラですか?」


「基準世界の伝説」


「基準世界の……」


「その名の意味は全てを与えられし者。禁忌の箱の蓋を開けて不幸を世界に拡散させた大罪人の名前だ」


「未来は一つでは無いと?」


「いや、系の中なら確定的だ」


「ですけど神はサイコロを振るのでしょう?」


「あくまで全知を否定するだけであって未来の確定性までは否定していない。そこは間違えるな」


 ザクザク。


「フラスコの中の世界……ですか」


「ああ。必然科学者としての神がフラスコを覗いている」


「少し混乱してきました」


「別段この世界には必要の無い知識だからな」


「では何故アイン様は?」


「暇だったから」


 あっけらかん。


 その通りではあるのだが。


 アインは魔術の才能が無いため傍流に放逐された忌み子だ。


 子どもの頃からの十年を通して鬼一と語らう機会は幾らでも有ったため、鬼一の講義を淀みなく修めるに苦労は無かった。


 量子論と言われてもこの世界の住人には意義の有ることでは無い。


 それはリリィにも適用できる。


 であるから、


「ま、気ままに暮らすにあたっては必要ないぞ」


「でも面白いです」


「どの辺が?」


「神様がサイコロを振るか振らないか……という考え方がですね」


「まぁ世界を知るには物理学が一番手っ取り早いからな」


「物理学?」


「閑話休題」


 ザクザク。


「リリィは今日はどうするんだ?」


「アイン様の応援です」


 きっぱり答えられた。


「面白くないと思うぞ?」


「万一怪我でもされたら迅速な治療が必要となります」


「その辺のお膳立てはされてると思うがなぁ」


「私は要りませんか……?」


 泣きそうな表情で言われれば、


「好きにしろよ」


 迂遠に肯定することしか出来ない。


 アインとて男である。


 女の涙には弱い。


 特に意識しているリリィともなれば。


 言葉にしないのはアインらしいのだが。


「それにしても決闘ね」


「小生はどうすれば?」


「まぁ首をはねる役割だな」


「無理じゃろ」


「だな」


 その辺はツーカーだ。


「師匠は役に立たないな」


「きさんもな」


 美しい師弟愛。


「あはは」


 と誤魔化し笑いで冷や汗をかくリリィだった。


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