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第63話:学院祭のしがらみ07


「たでぇまぁ……」


 アインは玄関を潜って寮に戻る。


「アイン様!」


 リリィが悲愴な顔で出迎えてくれる。


「どした?」


 問うアインに、


「鬼一様が……!」


「ここにいるぞ?」


 アインは腰に差した鬼一の柄頭をチョンチョンと叩く。


「お怪我はありませんか?」


「全く」


「ようございました」


「心配のしすぎだ」


 リリィの金髪をクシャッと撫でる。


「ま、気持ちは有り難く受け取るがな」


「恐縮です」


「とりあえず汗をかいたから風呂に入ろうぜ」


「お着替えを用意しております。どうぞ脱衣所へ」


「ん。愛い奴愛い奴」


 アインは苦笑した。


 それから二人は入浴する。


 アインは既に性欲を処理しているためリリィの裸にも反応しない。


 リリィの方は、


「むう」


 と不満そうだが、


「貞節を心がけるように」


 という暗黙の了解に屈していた。


 本心としてはアインに抱かれたいらしい。


 アインもソレは理解している。


 が、繰り返すが、


「知ったこっちゃない」


 が根源にある。


「あるいは」


 考えはするのだ。


「リリィを正妻に迎え子どもを早々に作ってクインの家を任せれば自分は平和裏に奔放になれるのかもしれない」


 と。


 今のところ抱く気は無いが。


 何より平民であるリリィをクイン家の正室にするのは父親が許さないだろう。


 貴族の直系でクイン家の跡継ぎであれば、貴族の血統の女性魔術師と結婚させられ血の濃度を高めることを義務とする。


 アインの否定的な意見は黙殺されるところだ。


「アイン様は禁欲的すぎます」


「それとはちと違うが」


 乙女を安く買いたたく趣味が無いだけだ。


 貴族なら幾らでも美少女を囲えるが、


「そんなゲスな真似できるか」


 が正直なところ。


「リリィはリリィの本当に好きな人を見つければ良い」


「アイン様です」


 平常運転。


 もはや漫才の領域にある。


「早く食べないと味が落ちますよ?」


「行かず後家にでもなってろ」


 怯まないアイン。


「アイン様」


「何でしょう?」


「クイン家の存亡はこの一事にかかっているのです」


「お前とクイン家は関係ないだろう」


「ノース神国指折りの大貴族……クイン家の補助をするのは私の使命です!」


「じゃあ別の誰かと子どもを作れ。養子にしてやるよ」


「アイン様の子種が欲しいです!」


「下品」


 チョップするアインだった。


「俺には他に相応しい女性が居ると言っておいてか?」


「子どもさえ作れれば私から望むことはありません」


「女性差別に繋がるぞ」


「貞操はアイン様に捧げます故」


「そのうえで嫁には為らんと?」


「アイン様とてこのような平民を愛せないでしょう?」


「お前より可愛い女子はちょっと見つからないんだが」


「お上手ですね」


「お前ほどじゃないがな」


「アイン様はお綺麗です」


「リリィは最上級に可愛いよ」


「…………」


「…………」


 二人の間に沈黙が落ちた。


 アインは頬をポリポリと掻く。


 リリィは湯あたりした。


 二人揃って顔が赤かったのである。


 が、生憎とツッコミ役は居なかった。


「どうしたものか……」


 それが二人の空気。


 会話が続かない。


 続けることも出来ない。


 ピチョンと湯船に水滴が落ちて跳ねる。


「あー……」


 言葉を探して、


「あがるか」


「そうですね」


 そういうことになった。


 アインはリリィに体を拭いて貰い、魔術で髪を乾かされ、寝間着に着替えた。


 そしてリリィもソレに順ずる。


 後は寝るだけだ。


 その前に茶を飲む二人。


 サウス王国の緑茶だ。


 二人そろって茶を楽しむ。


 相も変わらず漫才のような声かけだが。


 が、それはそれでアインにとっても心地よいものだった。


 翁と媼の世話になっているときは血生臭い毎日だったのだ。


 無論二人に心配をかけないよう配慮はしたが。


 それでもリリィに気安く心を仮託できるのは安らぎ以外の何でもなかった。


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