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第6話:十年後05


「しっかし……」


 アインは十年ぶりの実家で風呂に入っていた。


 鬼一は脱衣所に置いてきている。


「面倒くさいことになったな」


 心底呆れる。


 完璧にアインに魔術の才能は無い。


 そんな輩が魔術学院に入れと父は言う。


 ファーストワンと精霊石の力を使って。


 学院の受け入れは十六歳から。


 これから一年は魔術の研鑽に当てることになるのだろう。


 それが億劫だった。


 と、


「失礼します」


 カラリと戸が開いてリリィが入ってきた。


 体にタオルを巻いた以外は何も身につけず。


 年齢相応の胸と綺麗な曲線を描く尻が、タオル越しにも見て取れる。


「何してんだ!」


 童貞のアインには狼狽するべき事態である。


「いえ、あの、アイン様のお背中を流そうかと……」


「もう髪も体も洗い終わったよ」


「では一緒に入浴を」


「理性が崩壊するから止めて」


 心底から拒絶するアインだった。


「でも……抱いて貰わねば……困るので……」


「リリィの役割は俺の精霊石に魔力を補填することだろ?」


「それだけではありません」


 リリィは言う。


「私の存在の第一義は別にあります」


「何よ?」


「アイン様と子を作り……魔術師の血統を繋ぐことです」


「あー……」


 あの馬鹿親父が考えそうなことだ。


 ファーストワンであるリリィの子ならば高確率で魔術の才能を持つ子が生まれるだろう。


 そしてその子はアインの子と云うことでクインの直系になるのだ。


「リリィはそれで良いの?」


「構いません」


 決然とリリィは言った。


「何故にそこまで?」


「ご当主様には恩がありますので」


「親父が?」


「私がアイン様の愛人になることで私の家族は神都に引っ越して来られました」


「?」


 首を傾げるアイン。


 この辺りはお坊ちゃんである。


「今まで田舎で暮らしていて水と塩を売ってわずかな金銭を得るのが我が家の日常でした。しかして私のファーストワン……魔術師としての才能を買われてアイン様の愛人になってから家族は神都で安定した暮らしが出来るようになりました。金銭の都合もクインの家の恩恵を預かれることになりましたし、そのおかげで家族は楽をして暮らせるようになったのです」


「お前が身を売ることでか?」


「はい」


 素直に頷くリリィ。


 そこに躊躇は一切無かった。


「なんだかねぇ……」


 アインは苦笑する。


「自身で身を立てようとは思わなかったの?」


「私一人が魔術学院に通っても楽できるのは私だけで家族は今までの生活を続ける他ありませんでしたから」


 アインの愛人になればクイン家の権力で家族ごと保護して貰えるということだ。


「ですから私はアイン様に感謝しております」


「俺は何もしてねぇがなぁ……」


 チャプンと湯に浸かって吐息をつくアイン。


「一応コレでも処女ですので……性病の心配はありませんよ?」


 それはクイン家の長男のことを指しているのだろう。


 女に溺れて死んだ兄。


 別段お悔やみの感情は湧いてこない。


 元々アインは二人の兄にいびられて幼年期を過ごしたのだ。


「ざまぁみろ」


 とまではいかないが特に感情を覚えるほどでもない。


「それとも私は魅力に欠けるでしょうか?」


 不安げなリリィだった。


「魅力的ではあるな」


 率直に評する。


「では子作りを……」


「却下」


 コンマ単位で否定するアイン。


「別に血が絶えるならソレは必定だし」


「しかし……」


「愛人なんて立場でリリィを貶めたくない」


 サックリとアインは言ってのけた。


「好きに使ってくださっていいのですけど……」


「なら不干渉も有りだろ?」


「あう……」


 リリィは困惑したらしかった。


「それより学院入学までに魔術のなんたるかを俺に教えてくれ」


「それは……はい……ご当主様にも言われておりますし」


「重畳重畳」


 はふ、と風呂に浸かってゆったりするアインだった。


「では失礼します」


 髪と体を洗ったリリィがチャプンと湯船に入ってくる。


 位置はアインのすぐ隣。


 全身を隠していたタオルははだけていた。


 結果、


「っ!」


 全裸の美少女がアインの隣に居座ることになる。


 碧眼には情熱が乗っていた。


「どうやら本気らしい」


 とアインは覚る。


 もっとも相手にはしないわけだが。


「私を凌辱してください」


 リリィはそう懇願する。


「気が向いたらね」


 素っ気なくアイン。


「魔術師の子を産まなければ私の家族が……」


「知ったこっちゃないね」


 本心ではある。


 それ以上に童貞乙なのだが。


「もしかして男色のケでも……」


「ない」


「美しいお顔をされているから私てっきり……」


「不名誉だ」


 心の底から拒絶するアインだった。


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