第59話:学院祭のしがらみ03
「ま、膿を取り除くにも時間が居るって事だな」
「根気よく行きましょう」
ライトもソレには賛成らしかった。
と、
「おい」
アインに不躾な声をかけてくる第三者が一人。
「あ?」
特に気後れせずそっちを見やるアイン。
一人の青年が立っていた。
「先日は世話になったな」
「世話した覚えが無いが……」
「ほう?」
男性はバタフライナイフを取り出すとアインの喉に突きつけた。
「何のつもりだ?」
アインは怯まない。
そもそもレジデントコーピングの前では害意は十把一絡げだ。
「表に出ろ」
「めんどい」
サクリと否定してのけるアインだった。
「じゃあ死ねよ」
男性はナイフをアインの喉に突き刺そうと一切の疑念もなく躊躇いもなく押し付けた。
が、
「……っ!」
仮想聖釘がその邪魔をする。
ライトの投げ放ったソレだ。
アインは既に鬼一を帯刀している。
「それじゃあな」
抜刀術。
京八流が一手。
『溜抜』
そう呼ばれる技術だ。
神速の抜刀術がまさに男性を襲おうとしたとき、
「待ってください!」
ライトの声が刀を止めた。
薄皮一枚。
血が出ないギリギリで和刀は止まっていた。
男性は冷や汗をかいている
「ここでの狼藉は私が許しません」
声でそう言って、
「大人げないことは止めてください猊下」
思念でアインにそう言うライト。
「とは言われてもな」
アインとしてみれば他者の命なぞ十把一絡げだ。
猊下と呼ばれる以上、
「殺人禁止」
は前提だが、それでも痛めつけるに不足は無い。
「要するに」
とアインは言う。
思念で。
「逆らう気が起きないほど痛めつければいい話だろう」
そんな単純思考だった。
「これだから猊下は……」
ライトは赤い瞳に憂いを乗せる。
あるいは呆れか。
「ともあれ」
とライト。
「お二方とも神聖な教会で血生臭いことは止めてください」
「じゃあ外で殺し合うか」
「望むところだ」
アインと青年は瞳を爛々と輝かせて教会の外に出た。
「おう。そいつか」
「さすがに教会じゃ無理だったか」
青年と同じ年齢の男性二人が青年に声をかけてきた。
「ああ、こいつだ」
「で? 誰だお前?」
「知らんのか?」
「男に興味は持てないもんで」
アインは肩をすくめる。
「俺の名はキネトだ」
「キネトね」
三秒後には忘れてそうな名前だった。
アイン基準で言えばだが。
「とりあえずコイツをボコれば良いんだろ?」
キネトとやらのお仲間がそう短絡的な回答をした。
「その通りだ」
キネトもソレに乗った。
「何か恨まれることでも?」
アインに自覚は無い。
「忘れたとは言わせんぞ……!」
「残念ながら忘れてるな」
「俺に恥をかかせただろテメェ!」
キネトが憤慨する。
「恥?」
クネリと首を傾げるアインだった。
「貴様の不信心を矯正しようとした俺を痛めつけたろ」
「本気で覚えていない」
どこまでアインはアイニズムだった。
「そんなわけで殺してやるよ」
キネトが残虐性たっぷりにそう言った。
「やれやれ」
アインは納刀している鬼一の柄を握る。
「久しぶりに血が吸えるの」
鬼一も鬼一で嬉しがっている様子だ。
「じゃあ始めるか」
男たちはナイフと斧と鉈を持ちだした。
計三名。
しかしてアインが見るに、三人とも武器慣れしていない。
体勢の置き方も得物の握りも素人同然だ。
「さてどうするべきかね?」
そんなことを思う。
が、鶴の一声で場は収まった。
「止めなさい!」
ライトだ。
「文句があるのなら一対一の決闘で白黒付けなさい! 私がお膳立てしますから!」
そんなわけで喧嘩は後日の事となった。




