第57話:学院祭のしがらみ01
「アインさん! リリィさん!」
見た顔が声をかけてきた。
手芸部の部員だ。
「ファッションショーの件……考えてくれた?」
「それな……」
アインは口をへの字に歪める。
「アイン様諸共参加させて貰います」
リリィが言った。
「本当ですね! いやぁありがとうございます!」
そして二人をジロジロと見て、
「手芸部が全力で以てプロデュースさせていただきます!」
そう言い放った。
「おう……」
「よろしくお願いします」
アインは無気力に、リリィは丁寧に、それぞれ肯定する。
「では早速採寸してしまいましょう」
そゆことに。
「アインさんは鍛えられてますね……」
メジャーを当てている部員が感慨深げに言った。
「一種の趣味でな」
安パイの逃げ方をする。
「しかし筋骨隆々では無い……」
採寸しながら、
「ふむ」
と思案する部員。
「脂肪が極限まで減らされて、筋肉による構成比を大きくしているとなれば……」
察する。
「何かしらの武術でも?」
「鋭いな」
「魔術学院には少ない人種ですからね」
基本的に魔術学院は攻性魔術の習得を方針としているため魔術師は体を鍛えるという発想がない。
アインは魔術を使えず禁術も封印されているため剣術を極めなければ戦うことさえままならないのだった。
さすがにそんな事情を話せるわけもなく、
「伊達と酔狂だ」
心にも無い言葉を平然と吐く。
「とすると肉体のラインを隠す類の服装が良いですね……」
部員は色々と考えているようだ。
それでも採寸は滞りなく。
隣では簡素な服に着替えさせられたリリィが採寸されていた。
「リリィさんは羨ましい体つきをされていますね」
女性の部員がメジャーを当てる。
「あう……」
とリリィ。
「これならちょっと冒険しても良いかもしれませんね」
「冒険……ですか?」
「胸元の際どいイブニングドレスなどどうでしょう?」
「あまり恥ずかしいのは……」
「基本的に何を着せても似合いますよ」
ニコリと笑う部員。
「故にご本人の意見も尊重したいところですが……」
「出来れば普通の格好が……」
「ある種の奇抜さは諦めてください。これから作るのはファッションショー用の派手な衣装であります故」
「あ……はい……」
軽く言い含められていた。
「嬢ちゃんの体のラインは綺麗じゃの」
手芸部室の片隅に立てかけられている鬼一がそう言った。
当然テレパシーだ。
「親父くさいぞ師匠」
「基本俗物でな」
「世捨て人じゃなかったのかよ……」
「月と酒と花と詩……後は目の保養に女体があれば他に要らぬよ」
「仙人……だったか……?」
「うむ。輪廻六道の環から外れることが即ち悟り故な」
「輪廻六道……ねぇ?」
「ま、こっちの一神教には無い概念じゃろうな」
「この世とあの世」
アインは言う。
「更にあの世には天国と地獄が在るだけだな。死後の世界が本当に在るかは別として」
「厳密な意味では存在しないのじゃが準拠世界としては存在するぞ?」
「そもそもこっちの一神教はそっちの一神教のパクリなんだろ?」
「準拠と言え」
「へぇへ」
「そもそもきさんは知っておろう。全知全能がどういうものかを」
「そらまぁ」
アインは採寸を終えると黒衣礼服に着替えた。
リリィはまだ採寸されている。
男より女の方が面倒なのだ。
もっとも服装の選択の幅は女の方が圧倒的に広いが。
リリィの採寸が終わると、
「それでは」
といそいそとリリィは簡易な着替えスペースに隠れてカジュアルな服装に戻った。
「お時間取らせて済みません」
部員の一人が言ってくる。
「こちらでデザイン案を提出しますので、そこから当人にお選びいただく形と為りますがよろしいでしょうか?」
「ああ」
「はい」
アインとリリィはそれぞれ頷いた。
「それではまたご連絡させていただきます」
そんな部員。
そして二人は手芸部室を出た。




