第56話:祭のアレコレ11
そんなわけでそんなことになった。
「リリィを賭けて決闘」
そんなんばっかりだ……。
アインは嘆息する。
すぐさまコロシアムの一つが解放される。
「面倒事じゃの」
鬼一が嘆息した。
アインの黒衣礼服……学ランのベルトにさされた和刀である。
「本当に決闘なさるのですか?」
リリィは心配げだ。
「可愛いなぁ」
アインはそんな感想。
「ふえあっ!」
リリィが真っ赤になる。
「そんな可愛いリリィだから頑張れるのかもね」
「ふえ……」
ポーッと赤くなるリリィであった。
「こりゃ本気じゃな」
鬼一が思念でアインに語りかける。
「知ってる」
アインも逸れ者だ。
「とはいえなぁ」
鬼一とテレパシーで語り合いながら嘆息。
「申し訳ありません」
リリィが丁寧に謝罪してきた。
「何が?」
これを本気で言うのである。
「私のせいで煩わしいことに巻き込んでしまって」
「気にすんな」
アインは素っ気ない。
それが優しさだとリリィは既に学んでいた。
「ご武運を」
「お前に言われちゃ負けてやれないな」
アインの苦笑。
そしてアインはコロシアムに顔を出す。
「戦術は?」
鬼一が問う。
「正面突破」
あまりにも頭の悪い戦術だが、ことアインにおいては必勝の一手だ。
「決闘場に来たことだけは褒めてやる」
アルトが爛々と瞳に熱をたたえていた。
「ま、多生の縁と基準世界では云うらしいな」
「基準世界?」
「お前には関係のない話だ」
そして互いに一礼して距離を取る。
コロシアムの観客はまばら。
そも突然の決闘だ。
覗き見ている人物はよほど暇なのだろう。
主に教授格が多いのは暇人の証拠である。
後はアインとアルトの資質を見極めるためのものでもあるのだろう。
生徒の大多数は学院祭の準備で東奔西走である。
声を拡大する魔術で司会が進行を務め、
「試合開始!」
とスタートラインを切る。
いきなり勝負故にアインは相手の魔術を知らない。
もっともそれならそれでやりようはある。
正直なところ、
「禁術禁止」
の御触れがなければ勝負として成り立たない。
そのため戦術は一つだった。
現象の相殺。
他に手段がない。
「と云うわけでよろしく師匠」
「やれやれじゃ」
鬼一が魔術を使う。
当人は世捨て人(人では無いが)なので俗世に関わることは冗長なのだが、かと言ってアインの背景をよく知る一人として手を貸さないわけにもいかないのだった。
もっともそんなことを敵に向けて丁寧に教えてやる義理もないのだが。
スッとアルトが左手をアインに向ける。
「――フレイムランス――」
直訳して炎の槍。
灼火が槍の形と為り射出される。
それはアインの抜刀術に触れるや拡散した。
抗火魔術……鬼一には欠伸の出る初歩的なアンチマジックの一種だ。
もっとも……そこまでの理解をアインは別段アルトに求めてはいない。
「何が……!」
困惑するアルト。
アインは一歩一歩確実に……刀を構えながらアルトへと歩み進んでいく。
「――アイスブリザード――」
さらに呪文を唱えるアルト。
刀の一振りで吹き散らす。
何万回、何十万回と振ってきた刀の型故に……忘れる方が無理筋だ。
「何が……!」
ここでアルトの精神が困惑から狼狽に変化する。
「何が起こっている……っ!」
「得に何も」
アインは飄々と言う。
次なる呪文を唱えるもアルトの魔術は相殺される。
「さて。満足か?」
「何をした貴様……!」
「手の内を晒す馬鹿が居るか」
アインは鬼一を正眼に構える。
「降参するなら今のうちだぞ?」
そんな交渉。
「場合によっては首が飛ぶ」
「分かった……!」
アルトは観念した。
「私の負けだ」
そして決着。
アインは呟いた。
「やれやれ……」




