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第55話:祭のアレコレ10


 それからアインとリリィは学院に向かって歩いた。


 学院祭の準備に向けて学生は東奔西走する。


 アインたちは例外だが。


 アインは原っぱに寝転んでせわしなく動き回る学生を見やりながら、


「頑張るね」


 と皮肉をこぼす。


「こんなことでいいのでしょうか?」


 リリィは茶を飲みながら言葉とは裏腹に安穏としている。


「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ」


 先の平家物語を諳んじた後、


「ただ春の夜の夢のごとし。ひとへに風の前の塵に同じ。何事も変化を受け入れるのが賢いやり方ってもんだ」


「ですか」


 茶を飲んで受け入れるリリィ。


 そこに、


「失礼」


 と一人の学生が声をかけてきた。


 アインは原っぱに寝っ転がったままスルー。


 リリィが、


「何でしょう?」


 と問う。


「リリィさん……ですね?」


 相手はリリィのことを知っていた。


 淡泊な色の髪に紳士スマイル。


 アインにしてみれば知ったこっちゃないが、


「まぁまぁ紳士っぽい」


 と言えなくも無い。


 着ている服はスーツ。


 夏であるため薄い生地を使ったソレだ。


「これは申し遅れました」


 そこで道化のように反応してみせる男子生徒。


「私は名をアルトと申します」


 慇懃に一礼。


「これでもウェス帝国の貴族でありまして」


「はあ」


 ポカンとリリィ。


 アインは既に事情を了解していた。


「リリィさん?」


「何でしょう?」


 再度問うリリィ。


「今期の学院祭……私と一緒に巡りませんか?」


「謹んでごめんなさい」


 リリィは丁寧に断った。


「理由を聞かせていただいても?」


 紳士風青年……アルトは少し声が固くなった。


「私には既に予定がありますので」


「キャンセルなさってください」


「心苦しいですがお断りします」


 リリィの肝も大した物であった。


「そちらの少年のせいかな?」


「です」


 一寸の躊躇いも無い。


 リリィはアインを心から愛しているのだ。


 今のところ一方通行だが。


「少年。名は?」


「寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝る処に住む処藪ら柑子の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助」


 呼吸するように嘘をつくアインである。


「じゅげ……?」


 ちなみにこの準拠世界には名はあっても姓はない。


 そうでなくともアインの名乗りは問題外だが。


「頭が悪いんだな」


 苦笑するアインに、


「私を愚弄するか!」


 アルトは一瞬で沸騰した。


「私は栄えある貴族だぞ!」


 丁寧な口調はメッキだったらしい。


「俺も貴族だがな」


「ほう?」


 とアルトは挑発的に態度を変える。


「では貴族の誇りをかけて勝負しろ」


「嫌」


 サックリ答えるアイン。


 気後れさえ感じ入れない。


「敵前逃亡は男の名誉に関わるぞ」


「リリィに振られて気落ちしているのは分かるが俺にあたられてもな……」


 アインは全く取り合わない。


「リリィ。茶をくれ」


「はいな」


 リリィはコップに茶を注いでアインに手渡す。


 アインはソレを飲んでホッと吐息をついた。


「っ!」


 そんなアインの顔に手袋が叩きつけられた。


 アルトのものだ。


「何のつもりだ?」


「知らないとは言わせんぞ」


 アルトの瞳には幼稚ながら殺気が乗っていた。


「知らんな」


 アインは平常運転。


「決闘だ!」


 ビシッとアインを指差すアルト。


「どちらがリリィさんの主君に相応しいか決闘で証明してやる」


「面倒」


 どこまでもブレないアインである。


「貴族の栄光はどうした!」


「もとから背負ってるつもりもないからな」


 ぼんやりと答える。


「とにかく決闘だ!」


 アルトは呼気を燃やしてそう言った。


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