第52話:祭のアレコレ07
「はふ」
アインは湯船に浸かった。
洗髪。
洗体。
それらは従者であるリリィがこなした。
いい加減コレにも慣れてきたアインである。
性欲は入浴前にトイレで発散している。
いたしかたない事情とはいえ、さすがに屹立しつつリリィと一緒に風呂に入る剛毅さは彼には無い。
で、あるため、
「アイン様……」
熱っぽく見つめるリリィに、
「何でっしゃろ」
冷静に講じえた。
「私では不満でしょうか?」
「興奮しております」
嘘では無い。
残念ながら股間は反応していないが。
「ですけど……」
「別に必要ないし」
「あう……」
リリィは残念そうだ。
「何がそこまで駆り立てる?」
そう問いたいアインだった。
異性として意識している。
ソレは良い。
アインが好み。
ソレも良い。
アインの子どもを産む。
良くはないがソレも良い。
それでも、
「なんだかな」
アインは、
「馬鹿親父に付き従う必要も無いだろ」
そう言ってのけるのだった。
「はふ」
湯船に浸かって、
「極楽極楽」
と甘露を受けるアイン。
「けれどアイン様と子をなさねば」
あうあう。
リリィは焦る。
「別に俺じゃなくとも良いだろ」
それがアインの答え。
「けれど」
とこれはリリィ。
「クイン家の直系と子をなさねば私の存在理由が……」
「ソレが大事なのか?」
「です……」
「重症だな」
アインはこめかみを押さえた。
「据え膳食わねば……か」
「その通りです」
リリィの瞳は真摯に輝いていた。
「さて……」
とアイン。
「どうしたものか」
そんな思案。
リリィがアインを慕っているのは見て取れる。
それについては言い訳もあるが、
「蓼食う虫も好き好き」
と結論づけている。
である以上、
「自分はどうすべきか?」
それが最大の懸念だった。
リリィの慕情は本物だ。
そこに誤差は無い。
であれば、
「応えないのも何だかな」
と言える。
アインとて少年だ。
性的な要素は無視できる物ではない。
まして、
「タチが悪い」
と言える。
「何が?」
と問われれば、
「リリィのプロポーションが」
である。
モデル体型とでも言うのか。
胸から腹へ。
背中から尻へ。
綺麗な曲線を描いている。
黄金比である。
アインは入浴の前に性欲を処理しているため未だ事を為していないが、
「それもいつまで持つのやら」
そう皮肉も言いたくなる。
「というわけで子どもを作りましょう」
キラキラした瞳のリリィ。
「却下」
アインはグイとリリィにアイアンクローをかました。
「ああん」
リリィが身悶える。
「お前にも恋愛の自由があるぞ?」
「ですからアイン様を愛しております」
「重症だな」
そうには違いないのだ。
「アイン様と子作りがしたいです」
「もうちょっと大人に成ったらな」
それがアインの精一杯の抵抗だった。




