第51話:祭のアレコレ06
「ふむ……」
時間は過ぎて夜。
場所は寮部屋。
アインは私室で禁術の訓練をしていた。
とは言っても派手なモノでは無い。
「よ……ほ……」
指先から小さな炎を灯して、それを自在に操るだけだ。
魔術に必要な呪文も禁術には必要ない。
思念のみで結果を出せるのだ。
基本的に禁術は人前では使えない。
場合によっては賞金首にさえなる。
デッドオンリーの。
アインが偏に無事なのは教会に理解があるからだ。
枢機卿。
教皇猊下直々に拝命された地位。
数年前に教皇猊下を偶然フォローした際に禁術使いであるとバレてしまい、それ以降教会の使いっ走りになっているアインであった。
ある種、
「世界を滅ぼせる可能性」
であるため本来なら禁忌の存在だ。
故にアインの異能は、
『禁術』
と呼ばれているのだから。
ともあれ訓練である。
明かりのない私室で人魂にも似た小さな炎を自在に操る。
それが私室での唯一の明かりだった。
「…………」
スッ。
スッ。
アインはタクトを振るように人差し指を動かす。
ソレに応じて炎が動く。
まるで意思を持つように。
「相も変わらず」
と呆れたのは鬼一だ。
「きさんの理解力は脅威じゃの」
実際その通りではあるのだ。
アインはスポンジのように知識という水を大いに吸収している。
元素の概念も。
量子力学も。
禁術の行使も。
アインにとっては特別なことでは無いが、
「脅威じゃ」
と鬼一は言う。
「今更だろ」
アインは平常運転。
そもそもにして、
「誰のせいだ?」
がアインの結論である。
パチンと指を鳴らす。
炎はソレで消え失せた。
「師匠?」
「何じゃ?」
「的を」
「ああ、数は?」
「百八」
「あいあい」
頷いて鬼一は魔術を振るった。
式神。
そう呼ばれる魔術だ。
一口に、
「式神」
と云っても幾つかの種類がある。
此度鬼一が具現したのは紙の式神。
その数は百八。
人の三世における煩悩の数である。
鶴から人型まで。
折り紙の要領で具現した悪性存在。
が、アインは、
「…………」
無言で対処した。
――の精製。
ソレによる世界の縮小。
目視した分だけの式神が消えて失せた。
とはいえ百八全てだが。
結論として式神は全て消滅したのだった。
「阿呆じゃのう」
感慨深い。
そう言う鬼一。
「誰がそうした?」
アインの皮肉に、
「かか!」
と鬼一は笑う。
こと皮肉られることにおいて鬼一ほど痛痒しない存在もいない。
「ま、いいんだが」
アインとてソレは分かっている。
なお師匠でもあるのだ。
魔術の才能の無い貴族の息子。
そに別の才能を見出す。
そうでもなければ今頃もまたアインは卑屈に生きていただろう。
「…………」
今度は禁術で氷を生み出す。
それを自在に操って消滅させる。
消滅。
それが禁術の根幹だ。
であるため、
「禁術は秘中の秘」
と呼ばれるのだから。




