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第47話:祭のアレコレ02


「教会は何かすんのか?」


 アインはそうシスターに尋ねていた。


 時間は夕方。


 場所は教会。


 夕餉の材料を買いに行くにあたってリリィが、


「寄りませんか?」


 と言ったので教会に顔を見せることになったのだ。


 リリィは礼拝してアインは礼拝しなかった。


「あなたに神のご加護があらんことを」


 シスター……ライトが祈りの言葉を口にして、参拝客に一人一人丁重に祝福の言の葉を紡ぐ。


「よくそんな面倒くさいことが出来るな」


 とアインは思うのだが、あくまで思うだけだ。


 そして先述の質問に答えが返される。


「教会は食事を無償で提供する予定です。学院祭の催し物なら学院から予算が下りますので」


「学院祭ね……」


 への字に口を歪めるアインだった。


「何やら大がかりなイベントらしいが……」


「そうですね。夏の学院祭と冬の聖誕祭が国家共有魔術学院の二大お祭りです」


「研究室には所属してねーしサークルも入ってないから俺としては客分だな」


「猊下にはもっとすべき仕事があります故」


「それな」


 嘆息。


 アインのものだ。


「魔族……ねぇ?」


「ここでは頻繁に出ますね」


「だな」


 アインは椅子に立てかけている和刀……鬼一の柄頭をちょんちょんと叩く。


「魔族ってのは何ぞや?」


「教えたじゃろう?」


 鬼一の答えは簡潔を極めた。


「まぁそうではあるんだが……」


 やれやれとアインは首を振る。


「何の話でしょう?」


 ライトが礼拝客に祝福の言葉をかけながら、同時にこちらとの会話にも並行する。


「あんまり言いたくない」


「じゃの」


 アインと鬼一はけんもほろろであった。


 ことこの件においては鬼一やその同種くらいしか理解の及ばない範囲だ。


 アインとて鬼一の言を疑っているわけではないが信じるにも気力を必要とする情報なのだから。


「ま、講義が止まるのはいいことだ」


 そんな結論。


「かか!」


 呵々大笑する鬼一だった。


「もしもお暇なら猊下も教会のイベントに手を貸して貰えませんか?」


「あんまり興味はわかないな」


「猊下がいらっしゃれば有り難さも増すと思うのですけど……」


「頑張れ」


 処置のしようがなかった。


「おい、貴様!」


 そんな第三者の声。


 鬼一を中心としたハブ型思念会話とは別に、空気を振るわせて声をかける男性一人。


「何よ?」


 アインは声のした方をチラリと見やる。


「教会に来て礼拝しないとは何事か!」


「あー……」


 特に勘案すべき事でもない。


「知り合いの付き添いだからな」


 アインは肩をすくめた。


「貴様……神様を蔑ろにするつもりか!」


「いつも祈ってるから改めて祈らなくていいんだよ」


 心にも無い言い訳。


「俺がその不遜を正してやる!」


 そう言って拳を振るってくる男性。


「…………」


 アインは無言で振るわれた拳を片手で掴んで止めた。


「信仰の道を説いておきながら暴力に頼るようじゃ本末転倒だろう」


 拳を掴んだままアインは皮肉る。


「手を離せ!」


「謝罪の言葉を聞けばな」


「貴様が悪い!」


「じゃあもう少し強くするか」


 グッと掴んだ男性の拳を握りつぶす。


 グシャッと嫌な音がする。


「っ……がああああ!」


 指の骨が折れた音だ。


「さて。どうするね?」


 グシャグシャとアインは骨や筋肉の強度を無視して男性の拳を握りつぶしていく。


「謝る! 謝る! すまなかった!」


「よろしい」


 そこで漸くアインは男性の拳を解放する。


「災難でしたね」


 ライトが思念で苦笑した。


「全くだ。骨を折ったから治してやってくれ」


「ええ、そのつもりです」


 軽やかな音楽のようなライトの思念。


 ライトは審問官ではあるが、同時に紛うことなき修道女でもある。


 男性の怪我を癒やす魔術は備えて当然だった。


 もっとも……神罰執行における一端の技術であるためアインに言わせれば、


「業が深い」


 に終始するのだが。


「アイン様?」


「どした?」


 リリィの声に声で返すアイン。


「大丈夫でしたか?」


「一くさり見てたろ。俺に問題は無い」


「ならいいのですけど……」


 リリィは困惑している様子だった。


「ま、レジデントコーピングを適応させなかっただけ良心的じゃの」


 鬼一がくつくつと笑った。


 まったくその通りではあるのだ。


 事情が事情なためあまり公の前で見せてはいけない技術なのだから。


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