第46話:祭のアレコレ01
アインとリリィは張り紙を見た。
「学院祭……」
「ですか……」
二人揃ってポカンとする。
掲示板の張り紙には国家共有魔術学院において一ヶ月後に学院祭を開催する旨が通達された。
それによればどうやら都市国家である学院から学院街まで含めたお祭り騒ぎをやるとのこと。
催し物が行ないたい研究室やサークルや団体は、その内容を書類として事務に報告すべしとも書かれてある。
何でも学院の敷地を一般人に開放させるため、学院街の商人も学院内で出店を開くことが許されるとか。
結論として、
「俺には関係ないな」
アインはサックリ言ってのけた。
アインは黒髪黒眼の美少年である。
格好良いと言うより愛らしいと評せる甘いマスクの持ち主で、現在は国家共有魔術学院の生徒でもある。
その隣で、
「あはは」
と苦笑したのはリリィ。
金髪碧眼の美少女であり、お顔の甘さはアインに並ぶが、魔術の素質は群を抜いている。
実は事情あってアインのフォローをしているため苦労人でもある。
「祭りを蹴るとは無粋じゃの」
年寄り臭い言葉(というと語弊にあたるが)を吐いたのはアインの黒衣礼服の腰に差してある和刀である。
名を鬼一法眼というインテリジェンスソード……即ち意思持つ魔剣である。
アインに剣術と禁術を指導した師匠でもあるが、あまり尊敬はされていない。
鬼一自身も魔術が使え、それ故どうにかして現状を維持できる有様であった。
何故か。
答えは単純でアインが魔術を使えないからであった。
魔術は血統によって決まり、貴族として優遇される。
全部が全部では無いが、貴族と魔術師はニアリーイコールで結べるのだ。
アインはノース神国の大貴族の出であるが、血に恵まれず魔術の素質はない。
が、当人が嘆息するほど馬鹿馬鹿しい事情で魔術が使えないのに魔術学院に在籍することになったのだ。
先述したが当然アインは魔術を使えない。
であるためクイン家の当主……アインの父はリリィと精霊石を宛がった。
リリィはファーストワンと呼ばれる血統に依存しない魔術師。
精霊石はどんな原理か魔力を貯蓄して保有者の意思によって放出……結果として魔術の素質の無い者でも貯蓄した魔力分の魔術を扱えるという大変便利な代物。
リリィが精霊石に魔力を込めて、その魔力で以てアインは魔術を行使する。
ついでに腰に差している鬼一の魔術を自身の魔術と偽る。
そんなこんなで魔術師では無いのに魔術師と誤解させて学院をやりくりしているアインであった。
当人は、
「はた迷惑だ」
と父を恨んでさえいるが、クイン家の直系がもうアインしか居ない以上アインが、
「立派な魔術師になった」
と見せかけてクイン家を継ぐしか手が無いのも事実。
貴族としての体面上の問題だが、アインはあまり気負ってはいなかった。
「衰退するならそれまでだろ」
盛者必衰。
貴族の血とて永遠では無い。
アインは魔術とは別の才能を持って生まれたが故、特に生きるに不便はない。
クイン家の直系であるアインとファーストワンであるリリィの間に子どもを作り、再び栄光ある大貴族のメンツを保つという仕事がアインにはあるが、先述したとおり気負ってはいない。
それはそれとして、学院祭である。
見れば関係者各位はお祭り用の礼服(異世界で言うところの法被)を着て奔走しているのが見受けられる。
「大変だねぇ」
特にお祭りの熱気にあてられることもなく他人事のように評するのだった。
「つまらん男じゃの」
「誰のせいだと思ってる?」
「三つ子の時は小生はおらんぞ?」
「百まで生きれるかね?」
「むしろ死ねるかを考えた方が有益かものう」
「…………」
嫌な事情を思い出して口をへの字に歪めるアインであった。
「さて」
アインは話を切り替える。
「講義に行くか」
研究室に所属しないアインは学院にいるために単位を取る必要があり、それ故に講義に出る必要がある。
全てはノース神国の宮廷魔術師になるためのステップだ。
そんなわけで講義室に向かって席を取り、鬼一を机に立てかけて突っ伏して寝るのがアインの日常だ。
そもそもにして鬼一という知恵者に十年間みっちりと戦闘と教養を授けられたアインにしてみれば学院の講義は欠伸の種でしかない。
数学、物理、神学に哲学……果ては使えない魔術の教養までもを最先端の知識で教え込まれた逸れ者だ。
世界の成り立ちを知る者としてこれ以上の猛者も居ない。
例外はあるが。
今日も今日とてアインは講義で昼寝をして、それから昼休みに入ると学食で昼食とした。
サウス王国の料理を好むアインはヅケ丼を頼んで頬張る。
リリィはカルボナーラだ。
「うまうま」
アインはご満悦。
「テスト対策は大丈夫でしょうか?」
リリィはそれが心配らしい。
「知らね」
あっさりとアイン。
元より世界の通念に迎合するつもりがないのでこんな言葉も出る。
「アイン様……」
「まぁお前が気にするこっちゃない」
ヅケ丼をもむもむ。
「今更四大元素とか言われてもな」
火、水、風、土。
そんな分かりやすい構成で世界が成るなら苦労はない。
元素は多数有る。
水素から始まってヘリウム……リチウム……ベリリウムと確固たる周期表によって現わされるのがアインの中での元素だ。
無論鬼一の教えではあるのだが。




