表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/242

第45話:その者、禁忌の代行師11


「学院墓地か……」


 国家共有魔術学院には墓地がある。


 希に……というか頻繁に魔術で死亡する人間は出るものだ。


 元々学院は攻撃的な魔術の習得を学院生に課している。


 であれば攻性魔術を他者に向けて放つ阿呆がいるのも必然で、そに巻き込まれる不運者が出るのも必然だ。


 墓碑には、


「偉大なる魔術師アンネ、此処に眠る」


 と刻まれていた。


 十字架にはアンネの私物であるネックレスが掛かっている。


 教会の祝福を受けてアンネの墓はたてられた。


 ちっぽけな石の壇。


 遺体どころか骨も残っていない。


 セルフフレア。


 灼熱の業火と共に全てを失った……それがアンネの最後だ。


「だからこそ墓を作るのかもな」


 アインはそういう解釈をした。


 黒い学ランに、腰に差した和刀……鬼一法眼。


「死した人間には何も残らないから証明を残す……か」


「然りじゃの」


 鬼一も同意した。


「本当にアンネ様は死んだのですか……?」


 リリィは顔を青ざめさせながらアインに問う。


「具体的な証拠はないがな」


 全てはアインの体験記憶にしか残っていない。


 アインが教会を通じて学院に手を伸ばさねば、


「行方不明」


 で終わったことだろう。


 アンネの慕情は本物だった。


 暗示に掛かっていた故に死することになったがアインが仇は討った。


 もとよりアンネの慕情を持て余していたアインであるため騒がしくならなくなったのも幸いではある。


 だからといって一人の美少女の未来を踏みにじったケイオス派を許せるはずもないが。


 いっそアインもあの時一緒に死ねばなおアンネは救われたろうが、


「そこは勘弁してくれ」


 アインはアンネの墓にそう吐き捨てる。


 此度の一件は、


「エグゼクス」


 そう呼ばれている。


 アンネの自爆。


 アインの迦楼羅焔。


 二夜に渡って起きた爆発事件。


 エキストラエクスプロージョン。


 略してエグゼクスである。


 アインの禁術についてはバレていない。


 そもそもバレる使い方をアインがしない。


 そうであるから教会の秘中の秘と言えるのだが。


「アイン」


 これは鬼一。


「あまり自分を責めるなよ」


「五月蠅いのがいなくなって清々してるがな」


 アインは鬼一の柄頭をチョンチョンと指先で叩く。


「アンネが死んだのは偏にケイオス派のせいだ」


「知ってるって言ったろ」


「納得できるかは別問題だがな」


「性格の悪い……」


「きさんに言われるとは思わなかった」


「は……」


 その通りではある。


「俺は大丈夫だ」


 強がりではない。


 感傷が無いと言えば嘘になるが心を締め付ける類のものでも無い。


 それは確かだった。


「あうう……」


 むしろリリィが泣いていた。


 ボロボロと。


「優しい子だ」


 それがアインの本音だ。


 自分を顧みる。


 涙一つ流さない。


 他者の死に心を預けて泣くと言うことを久しくしていないアインであった。


 遠慮無く心を仮託して涙を流すリリィが愛おしい。


 自分には出来ないことであるが故に。


「リリィ……」


 アインはリリィの頭部に腕を回すと抱きしめる。


「うええ……うええええ……」


 泣き続けるリリィの気持ちは推し量れるモノではない。


「アンネ様はアイン様を好きでした」


「らしいな」


「本当に……心の底から……」


「だろうな」


「なんで私が生きていてアンネ様が……!」


「巫山戯るな」


 アインは厳しい言葉をかける。


「アンネを失った上にリリィまで失う気は無いぞ」


「はい……アイン様……」


 リリィはアインの体を預けて泣き続けた。


 曇天が空を覆う。


 ポツリポツリと水滴が天から落ちてきた。


「丁度良い」


 雨は涙を隠してくれる。


 石で作られた墓石を暗く濡らす。


「風邪引くぞい」


「だな」


 鬼一の進言にアインも同意した。


「ほら、リリィ、笑って送ってあげろ」


「出来ませんよぅ」


「さいか」


 アンネの墓石は何も語らなかった。


 それが人が死ぬという意味なのだろう。


 学院墓地の……その一欠け。


 陳列する数多の墓石の一つに相違なかった。


 そのどれもに一人一人のドラマがあったのだろう。


 祝福すべき命の価値。


 が、あまりに普遍的すぎてアインの心には響かない。


「結局俺が捻くれてるってことかね?」


「何を今更」


 鬼一の遠慮無い言葉にアインは嘆息した。


 それくらいしかアインが死者に出来ることはなかったのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ