第41話:その者、禁忌の代行師07
「やったねアイン!」
アンネは心の底から嬉しそうだ。
アインを抱きしめて猫かわいがり。
「可愛いなぁ可愛いなぁ」
クシャクシャとアインの黒髪を撫でる。
「アインがアンチウィンドを使うとはな」
シャウトも感嘆していた。
「私のためにありがと!」
猫かわいがり。
アンネは本気で感謝しているらしい。
アインの義理ではないが。
「別段そんなつもりじゃねえよ」
アインは不遜に言う。
「でもそれなら負けても良いわけでしょ?」
「貴族の家名に傷を付けるのもなんでな」
皮肉はアインの十八番だ。
「可愛い!」
アンネはアインを可愛がるのだった。
「不名誉だ」
アインはアンネを引きはがす。
「ああん。アイン」
「とりあえず露払いはした」
アインは言う。
決然たる事実だ。
「後はお前の問題だろ?」
「私はアインが好き!」
愛を叫ぶアンネに、
「知ったこっちゃない」
残酷なアイン。
偽悪者になるのは慣れている。
「アイン?」
アンネはアインの耳元で、
「――っ」
ボソッと何かを呟いた。
「まぁお前がそうしろというならそうするがな」
アインは応える。
嘆息。
「約束だよ?」
「ああ、約束だ」
そして二人は別れた。
時は過ぎる。
「結局」
とリリィ。
「アンネ様は何の用だったんですか?」
「この後俺に伝えたいことが在るとよ」
風呂の時間。
アインは湯船に浸かってそう言う。
実質その通りだ。
場所はとある決闘場。
そこで愛の告白をする。
それがアンネの希望だ。
「アイン様はどうするつもりで?」
「まぁ断らざるを得ないだろうな」
「恋する乙女を?」
「ソレについては俺の管轄じゃねえし」
「アインらしいのう」
鬼一が笑った。
「不義理……とは思わないんですか?」
「他人を気にしてこの浮世を生きられるかよ」
肩をすくめるアイン。
彼の中ではそれが真理で、異論はあっても聞き入れるだけの度量が彼の方には存在しない。
「アイン様は……」
「リリィが好きだ」
「あう……」
火照るリリィ。
湯船のソレではない。
「とりあえず盛大にフるさ」
しっかとそういうアインだった。
「アンネ様が救われません」
「元から興味が無かったのはお前をしてその通りだろ?」
「そ~ですけど~」
リリィは不満らしかった。
そして夜が来る。
アインは多数有る決闘場の一つに来ていた。
客はいない。
深夜。
草木も眠る丑三つ時。
アインは鬼一を腰に差して決闘場を訪れていた。
決着を付けるために。
「あ、アイン」
アンネがアインを捉える。
アンネに呼び出された場所。
それがこの決闘場だった。
とはいえ戦うわけではない。
アンネは気安くアインの射程に入ると、
「大好き」
そう言った。
「俺はそうでもないがな」
アインは平常通りといった様子だ。
「そんなアインだから私は好き」
「モテる男は大変だな」
アインは苦笑する。
「私と付き合って」
「無理」
即決。
故に説得の余地もない。
「そう言うと思った」
クスクスと笑ってアンネが言葉を伝えると、そのままアインを抱きしめる。