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第35話:その者、禁忌の代行師01


 もはやアインの学院での立場は危ういものとなった。


 特別当人が何かしたわけでは無い。


 神懸かりの美少女リリィ。


 垢抜けた美少女アンネ。


 ついでに同性を魅了するゲイことシャウト。


 こんな奴原を引き連れているためアインの意志にかかわらず憧憬や嫉妬は避けられない。


 ちなみに、


「シャウト様のお気に入り」


 という風の噂については殺意を覚えるほどだ。


 元々のお顔が綺麗なのでお姉様方の妄想のネタにされている現状には前後不覚にもなろうというもの。


 まったくの見当違いだが、抗弁の機会は与えられない。


 まさか生徒一人一人に説いて回るのも不細工だ。


「先日は教授が失礼した。今後あのようなことはしないのでもう一度だけ俺の研究室に来てくれないか?」


 シャウトがアインに寄り添って言う。


「別の人間を見繕え」


 アインは鬼一の柄頭を指で突きながら苛立っていた。


 ことキリル教授に対するアインの印象は最悪を遙かに突き抜けている。


 隷属の魔術……スレイブリィ。


 呪術専門の研究室なら当然精神汚染は押さえておくべきだが、平然と未来ある生徒を洗脳するのは犯罪だ。


 アインが対抗手段を持っていたから良かったものの、たらればを考えると蟻走感を覚えてしまう。


 警察に突き出すか学院に抗議するか。


 まだ決めかねているが危険と断ずるに余地は無い。


「お姉さんの研究室で良い事しようよ~」


 アンネも相変わらずだ。


 アインに付き纏って猫なで声。


 どうやらアインの素っ気ない態度が逆に乙女心を刺激するらしい。


 一応そんな心の機微はアインとて読めている。


「ではどうすればいいのか?」


 そんな命題に答えは出ないが。


「俺の事は諦めろ」


「いーや」


 なら好きにしろよ。


 そう言おうとして思いとどまる。


 失言の類だ。


 カラカラと笑い声が響く。


「モテモテじゃな」


 鬼一だ。


「趣味の悪い連中がこの世に二人も居るとはな」


「リリィの嬢ちゃんも含めれば三人じゃが?」


「そうだった」


「その辺どうじゃ? リリィ」


「アイン様は格好良くございますから」


 リリィの思念が介入してきた。


 鬼一がアクセスしたのだろう。


「リリィは本当に俺でいいのか?」


「望外の幸運です。アイン様にお仕えできるなど」


「恋愛の自由は誰しもにあるぞ?」


「ですからアイン様をお慕い申し上げております」


「じゃお前が正妻で良いか?」


「畏れ多いです」


「何だかなぁ」


 ぼやかざるを得ない。


 そこに、


「アイン!」


 アインの名が呼ばれる。


 第三者だ。


 リリィでもアンネでもシャウトでもない。


 年齢はシャウトと同じ程度だろう。


 魔術学院は事情が事情のため十六歳からしか入れない。


 そのためアインとリリィという新入生は最も若く、年長者が学院を跋扈する。


 魔術師は貴族が為るものであるため数は希少だが、それでも神王皇帝四ヶ国の魔術師の卵を集めれば学院として成立する数になるのも相応だ。


 青年が言う。


「俺と決闘をしろ!」


「嫌」


 返答はコンマ単位だった。


 面倒はアインの嫌う言葉の一つだ。


「逃げる気か臆病者!」


「臆病者だから逃げるんだよ」


 言葉と口調が一致していない。


 まぁ決闘を申し込まれる程度に気後れする義理も無いが。


「アンネさんを賭けて堂々と勝負しろ!」


「俺の負けだ。アンネはお前に進呈しよう」


「巫山戯るか!」


 本心である。


 少なくともアインは。


「……っ!」


 その態度に激発した青年は貴族御用達の(アインの興味対象外の一つだ)手袋を外してアインに叩きつける。


「お前を負かせてアンネさんの蒙を啓く!」


「面倒くさい」


 どこまでも乗り気じゃないアイン。


 叩きつけられた手袋を顔からはぎ取り地面に落とすとグシャグシャと踏みにじる。


「貴様!」


「文句があるならかかってこいよ」


 アインは鬼一の柄に手を添える。


 京八流……溜抜。


 所謂一つの抜刀術。


 魔術の行使速度よりアインの剣術の方が疾い。


 その威力を察したか、


「ぐ! 決闘は後日だ! 決闘場の準備もいるしな! 断っておくが逃げるなよ!」


 そんな言を紡いで去って行った。


「無茶言うな」


 そんな言葉は青年には聞こえていないようだった。


 鬼一を握った手が元の位置に戻される。


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