第34話:忍び寄る影13
背後から奇襲をかけた残り一人にアインは集中する。
神速で以て剣を振るい牽制。
然る後に鞘で刺突すると、暗殺者はナイフでこれを弾こうとした。
的確な判断ではあるが生憎とアインの技術は彼らより数段上だ。
まるで生き物のように鞘がくねると。ナイフを絡み取って暗殺者の手から奪い取る。
放られたナイフを目で追う暗殺者に上段回し蹴りを放って蹴り飛ばす。
その勢いのまま反転。
襲ってくるのは三人の暗殺者。
アインは退いた。
というのも回し蹴りを決めた暗殺者の意識を刈り取ってはいないため、三人を相手にして背後を取られては面倒であるためだ。
それならそれでやり様はあるが、面倒事が嫌いなタチでもある。
その気になれば頭蓋を陥没させることも出来るのだが、事情があってアインは人を殺せない。
ゲッシュだ。
必然緩い対応しか出来ないのだった。
相手は完全に殺す気でいるため、
「不平等だ」
と叫びたかったが、叫んでどうなるものでもない。
とりあえず暗殺者の対処。
街路は狭く、一対多は決して後者を有利にはしない。
一人の方がのびのびと刀を振るえるのである。
縮地。
一瞬で暗殺者の懐に飛び込むと鞘で鳩尾を突く。
「が――!」
呻く暗殺者の顎を鬼一の柄頭が叩く。
暗殺者の一人の意識が遊離する。
なおアインは止まらない。
すぐ隣で戦慄している暗殺者に強襲をかける。
「驚いている暇があるのか?」
そんな問いは言葉にならない。
音すら置き去りの世界だ。
腰が鬼一を加速させる。
鬼一の刀身は仮面ごと三人目の暗殺者を無力化した。
その双眸を切り裂くことで。
目を奪われては暗殺も何も無い。
暗殺者に限った話でもないのだが。
四人目は恐慌状態で襲いかかってきた。
元より今夜の襲撃者の動きには型が無い。
暴漢と言うにはそつなく技術が纏まっているがアインにしてみれば三流だ。
上から下へ。
大振りでナイフを振るう暗殺者よりアインの方が疾かった。
相手は大振り。
アインは刺突。
先述したがどちらがより疾いかは言うまでも無い。
股間のブツを切り裂いて悶絶させるアイン。
最後の一人……頭部を蹴られて意識朦朧としている暗殺者に近づいて刀の切っ先を向ける。
「で? いったい何の用?」
いっそ爽やかにアインは笑っていたが、ほとんど死刑宣告のような物だ。
アインは人を殺せないが、それを相手が知るはずもない。
「貴様は咎人だ」
暗殺者は糾弾した……というには弱々しい言葉だったが。
「咎人ね」
心当たりは幾らでもあるが、さしてこれほどまでに未熟な暗殺者がアインの背景を洗えるものか?
それが大きな疑問となる。
「どう思う師匠?」
「何とも言えんな」
「ある種の木っ端役人だし当人らが正確に事情を知っているかも怪しいな」
「些事はライトに任せれば良かろう」
「回線繋いでくれ師匠」
「じゃな」
そして思念による会話に教会のシスター……ライトがログインする。
「何の御用でしょう?」
ライトは丁寧にそう言った。
「ちと暴漢に襲われたんだが」
チラリと状況を説明。
「こちらに連絡してきたと言うことは……」
それだけで覚ったらしい。
話の早い人間はアインも嫌いじゃない。
「多分だがな。もしかして俺の素性がバレたりしてると思うか?」
「それは有り得ません。仮に猊下の正体を知っているならば三流の暗殺者なぞよこさないでしょう」
「ってーことは別口か?」
「あるいは勘違いが一周回って……ということも」
「なるほどな」
大いに有り得そうな状況だった。
「警察への連絡はそっちに任せる」
「ではその通りに」
そして回線が切れる。
「さて」
残る一人の暗殺者に意識をやる。
武器も無く刀で牽制されて身動きが取れない。
アインの判断は速かった。
ゴンと鞘で頭部を叩いて吹っ飛ばすと寝転がって呻いている暗殺者のアキレスを和刀で切った。
これで動きは封じられたはずだ。
後は警察に引き渡すだけ。
それはライトに頼んでいる。
であるためアインは速やかにその場を離れた。
鬼一を握ったまま。
「本当に大丈夫かね?」
アインは不安げだ。
言葉ほど意識は憂慮していないが。
「まぁ魔術学院は魔窟じゃ。魔術犯罪者の温床とも言える。であればこういうこともあるのかものう」
「俺、何か恨まれるような事したか?」
「きさんがそれを言うか……」
「だな」
一応アインも自覚はしている。




