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第32話:忍び寄る影11


 朝食を終えれば今日も一日勉学に励むことになる。


 とはいえ鬼一から知識をモリモリ吸収したアインにしてみれば産業革命の起こっていない時代考証は論ずるにも値しない。


「言いたいことはわからんじゃないが……」


 毎度毎度の嘆息だ。


 とりあえず筆記はリリィに任せて、アインは惰眠を貪った。


 こと講義においてはアンネもシャウトも付き合えないので気楽な気持ちになれるのが唯一の利点と言えるだろう。


 そんなこんなで講義を寝てすごし、学食で昼食をとってから、二人は講義を反復した。


「講師の言に寄れば世界は火素、水素、風素、土素の四つに分類され、この四つは湿乾冷暖で区別できると――」


 魔術の基礎を習うアイン。


 一応一年間リリィに指示したこともあり、この世界の通念は理解していたつもりだが、


「なんだかなぁ」


 が感想だ。


 元より理解は出来ても共感は出来ないのだからしょうがない。


 リリィの講義をおざなりに聞きながらアインは、


「面倒くさいな」


 そんなことを思った。


「いっそ教授になってみたらどうじゃ? きさんならいくらでも講義できるじゃろう?」


 アインの愚痴にからかう鬼一。


「ニュートン物理学から始める必要があるんだが……」


「その前に数学の知識が要るじゃろう」


「千里も道も……か」


「然りじゃ」


 鬼一は笑った。


「いつだってパラダイムシフトを起こすのは一人の人間じゃしの」


「それは後世の科学者に任せよう」


 そんな無益な会話をしていると、


「ここにいた」


 アンネの声が聞こえた。


「よう先輩」


「またリリィの講義? 言ってくれればお姉さんが幾らでも……」


「聞き飽きた」


「意地悪……」


「こういう性格だ。諦めてくれ」


 言うほど殊勝な口調ではなかったが。


「とりあえず昼食をとりましょ?」


「学食?」


「んにゃ? パン買って研究室で食べましょう」


「研究室ね」


「まぁきさんをどうこうできるはずもあるまい」


「俺だけならな」


「アインが嫌ならリリィだけでも……」


「私はアイン様にお仕えする身ですのでアイン様から離れることは有り得ません」


「じゃあアインも一緒に」


「話聞いてたかお前……」


 因果逆転の呪いだ。


 とはいえ健全な研究室ではあるらしく素直にアインたちは従った。


 さすがに暗示をかけてまで研究生を確保しようとする人外が二人も三人も居てはたまらない。


 その辺の感覚は備わっている。


 最初にババを引いたのはアインの業の深さを物語るが。


「というわけでフレイム研究室だよ」


 研究棟の一室に入るアインたち。


「飲み物はコーヒーしか無いけど良い?」


 問うアンネに、


「構わん」


「お気遣い無く」


 二人らしい返答。


「お、新しい研究生?」


 研究室の一人の青年がアインとリリィに興味を示した。


 年齢的にはシャウトと同じ程度。


 ただしマスクが甘く何となくシャウトの餌食になりそうな雰囲気の生徒だった。


「新入生」


 とアンネが言う。


「見学?」


「出来れば入室して貰いたいけどね」


「新入生にしてアンネにそう云わせるなんて君らは凄いな」


「恐縮だ」


「恐縮です」


「あんまり新入生をからかわないの」


 それから陶器のカップにコーヒーを注いで手渡してくるアンネ。


 受け取って飲む。


「うむ。マズい」


「ま、そんなものよね」


 アンネも特に否定はしなかった。


「アンネが招いたってことは火の属性の魔術師?」


「いや、俺は風」


 実際は違うが体面上そう装っている。


「私は特に」


 基本的に属性に縛られないリリィである。


「うちは火素の研究をする場所なんだけど……」


 難しい顔をする研究生だった。


「頑張れ」


 誠意も無く言ってのけ、コーヒーを飲んでパンをかじる。


「たまには違う属性の子を入れてもいいでしょ?」


「教授が納得するかね?」


 そんなやりとりを聞きながら、


「火の属性ね……」


「きさんならお手の物じゃろ?」


「禁術でならな」


「然りじゃ」


 思念で会話するアインと鬼一。


 しばし研究室をアンネ先導で案内され、論文を読み解いて(リリィが)魔術のイメージを構築すると、


「もう用は無し」


 と研究室を去る二人だった。


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