第29話:忍び寄る影08
「アイン様」
とリリィが呼ぶ。
「どした?」
「湯浴みの用意が出来ました」
「結構」
「それではこちらへ」
アインの着替えを持ってリリィがアインを浴室に案内する。
「ちょっと」
制止の声。
湯豆腐を食べた後も食後の茶を飲んでゴロゴロしていたアンネが咎める。
「リリィ? もしかしてアインと一緒に入浴する気じゃ……」
「そのつもりですけど……」
「お姉さんも一緒に入る!」
「私は構いませんが……」
チラとリリィはアインを見やる。
ちなみに鬼一は大爆笑。
「笑い過ぎだ師匠」
「よくもまぁ」
鬼一にしてみれば人間が最大の娯楽だ。
「私だってリリィに負けないくらいプロポーション良いでしょ?」
「だからって加点対象にはならんがな」
「むぅ!」
呻くアンネ。
「とりあえず私も一緒に入る!」
「見苦しい物を見せることになるぞ?」
「ウェルカム」
「ビッチめ」
「形而上的には否定はしない」
「性病怖い」
「一応処女なんだけど……」
「ならもっと体を大切にしろ」
「アインの子を身籠もったらもう一度言って?」
「疲れるなお前……」
また嘆息。
「そんな反応しなくて良いじゃん……」
アンネは不満そうだ。
愚痴りたいのはアインも一緒ではあるが。
「とりあえずアイン様もアンネ様も浴室へどうぞ」
言われて二人は脱衣所に向かう。
アインはもうリリィで慣れたのか躊躇わず服を脱ぐ。
アンネはタオルで体を隠した。
そしてアインの股間を見る。
「むぅ」
「何か文句でもあるのか?」
「乙女と一緒なのに興奮しないの?」
さもあらんが。
「先に性欲を処理してるからな」
涼しげにアインは言った。
それからリリィに洗髪と洗体をやってもらって風呂に浸かる。
「ふい」
浮世の垢を落とす作業だ。
こればっかりは譲れない。
アンネもまた浴室に入ってくる。
続いてリリィも。
全裸の乙女二人を左右に侍らせて何様だが、
「……はぁ」
嘆息に止めるアインだった。
一応健全な青少年ではあるため性欲が果てても気疲れはするのである。
「お姉さんの裸どう?」
「知らんがな」
実際そっちをアインは意図して見やっていない。
「むぅ」
うめき声。
それからアインの腕にフニュンとした感触。
「…………」
さすがにそれが何かは分かった。
「アインさえ良ければ……」
「良ければ?」
「私のおっぱい好きにしていいよ?」
「他の男子に揉まれた後なら考えてやる」
「アインに一番を貰って欲しい、な」
な、が半音上がる。
「アイン様」
とこれはリリィ。
こっちもこっちで目に毒だ。
「アンネ様の提案も悪いモノではないかと」
「本気で言ってんのかお前?」
「アンネ様のお家も格式高いソレです。お二方の子どもなら優秀な者となりましょう」
「リリィちゃん大好き!」
アンネがリリィを抱きしめた。
フォローしたのを有り難がっているのだ。
「俺にはリリィが居るしなぁ……」
ぼんやりとアイン。
「私はアイン様の愛人です」
「功績次第では正社員になれるが?」
「なにそのブラック企業」
今度はアンネがジト目になった。
無論どうとも思わないアインではある。
「とりあえず先輩」
「なになに?」
「処女かビッチか……どっちかに決定しておいてくれ。今の状況はシュレディンガーの猫も真っ青だ」
「しゅれでぃんがーの猫?」
「量子物理学の思考実験だ」
「御免。わかりやすく喋って?」
「めんどいからパス」
そして肩まで湯に浸かるアインだった。




