第28話:忍び寄る影07
そして食材調達のために学院の門前市に顔を出す三人。
アインとリリィとアンネだ。
「先輩は大体いつもどうしてるんだ?」
「気分次第」
サラリと言う。
「使用人にリクエストして作って貰うときもあるしレストランに赴くときもあるし」
「ブルジョアめ」
「君が言う?」
「…………」
効果的な反論が思いつかなかった。
アインの家は神国でも指折りの大家だが血統の面で言えば追い詰められていると云って過言では無い。
一応ファーストワン……リリィを買収できたため血脈に不安はなくなったが、アインは立場上少し難題を抱えている。
閑話休題。
豆腐と白菜、長ネギに椎茸、人参と大根、後はダシを取るために昆布を買う。
「大根って……湯豆腐に入れるの?」
「いえ。すり下ろそうかと」
「だから好きだぞ」
アインは満足げだ。
「あう……」
と照れるリリィ。
しばし門前市を歩きながら明日の朝食の分まで食材を買い込んだ。
「食欲をそそるのう」
「師匠に飯は必要ないでしょ」
「やはは。然りじゃ」
当然思念会話。
市場で買ったリンゴ飴を囓りながらボーッと歩くアイン。
そこに、
「死ねぇぇぇ!」
暴漢が襲ってきた。
やはり先日のやりとりは偶然ではなかったらしい。
無差別な殺戮なら人のごった返す夕方の門前市にはいくらでも的は居る。
そこをあえてアインに襲いかかるというのだからタチが悪い。
暴漢の視線はアインを捕らえて離さなかった。
「こりゃ俺がリリィと一緒に居る方がリリィにとっては危険かね?」
「言ってる場合ですか……」
「お姉さんに任せなさい」
「殺すなよ」
「畏れ多くて出来ないよ?」
そして、
「――フレイムエンチャント――」
アンネは火の魔術を顕現する。
両手から炎が生まれ、灼熱で大気が揺らぐ。
ザワリと市場の商人たちもこちらに注目する。
魔術の妙を見たのだから敬意と恐怖と戦慄の三重奏が奏でられた。
指揮者はアンネ。
暴漢の手に持ったブラックジャックを触れただけで灰と化し、熱量を抑えられるのだろう……驚愕する暴漢の鳩尾に炎を纏った拳を埋め込む。
アインの足下程度ではあれどアンネも体の使い方には一定の理解を示しているらしかった。
「ぎぁぁぁぁ!」
火傷のせいだろう。
後は鳩尾への衝撃か。
悲鳴を上げる暴漢。
アインは頸動脈を締め付けて意識を奪った。
そこに警官が駆けつける。
魔術を使えない一般人だ。
基本的にもめ事が起こった場合権力によって罪の比重はアンバランスに陥る。
とは言っても今回の場合は暴漢の方から襲いかかってアインたちが穏便に無力化したことは市場の人間が理解しているためその場での事情聴取程度で終わった。
食材を買い終えて寮部屋に戻ると、
「はふ」
と吐息を一つ。
「こっちは悪くないのに何ゆえ事情聴取だ」
リリィの淹れてくれた緑茶を飲みながらアインは愚痴る。
「被害者からも意見を聞かねば不公平でしょ?」
アンネが答えた。
「然りじゃな」
鬼一も同意する。
「まぁわかっちゃいるんだが……」
そもそも襲われることが無いのが一番良いのも必然だ。
何かしらの思惑を感じざるを得ない。
それが何かを明確に形にするにはピースが足りないが。
思考の迷路に迷いかかったアインに、
「ところでこの緑茶って美味しいね」
アンネが絶妙なタイミングで話題転換。
考えるまでも無く偶然だろうが。
「サウス王国の文化だ」
「そなの?」
「ああ」
同じく緑茶を飲むアイン。
「茶葉を発酵させないでそのまま淹れる……というと語弊があるが少なくとも最も茶としては素に近いな」
「ふぅん?」
納得したのかしてないのか。
よく分からないアンネの言だ。
そこに鍋を持ったリリィが現れる。
アインのリクエスト通り湯豆腐だ。
大根おろしの入ったつゆにつけていただく仕様。
これがまた美味しく舌鼓を打つ。
「さすがリリィ」
賞賛するアインに、
「恐縮です」
満更でもないリリィだった。
しばし三人は歓談しながら湯豆腐を制圧していく。
魔術について。
研究室について。
アンネは、
「お姉さんの研究室に入らない?」
と誘惑してきた。
「知らん」
一蹴するアインではあったが。




