第240話:幕裏からの狂奔の魔笛17
「じゃんじゃん食べてね」
レイヴが気さくにそう言った。
アイスとしては頭が痛い。
剣聖枢機卿。
その威力を見せつけたも同然だ。
表彰式は苦痛でしかなく、周りの期待は重荷でしかなかった。
レイヴは喜んでいたが、これはいつものこと。
それからレストランでアイスとレイヴ、ソフとカーリルが祝勝会をしていたのだが、もちろん思うところは様々で。
無念。
「凄まじいですねアイン殿は」
「…………」
優勝者が準優勝者の言葉でピタリと止まる。
「某にも自負はあったのですが剣聖がこれほどとは……」
「何でバレてる?」
「剣筋が同一でしたので」
「だよなぁ」
その辺は想定内だ。
「もっと腕を磨かねば」
「これ以上強くなる気か」
サラダを食べながらアイス。
「お兄ちゃんが言う?」
とはソフ。
「ですです」
カーリルも同意見らしい。
「アイス卿も大概有り得ないしね」
嬉しくない。
ジト目でヒロインたちを見やる。
「とりあえずは一段落だな」
肉をアグリ。
「リリィも心配してるよ」
「だぁなぁ」
咀嚼。
嚥下。
そして爆発音が轟いた。
それも大型の。
「…………」
紅茶を飲むアイス。
一段落……のはずだったのだが。
巨大な爆発音がさらに二度ほど後を追う。
「何人死んだか?」
それは数えるしかない。
「報告します」
赤い髪と瞳の教徒がレストランに顔を出した。
ライトだ。
「裏は取れましたか?」
「取れましたが……それよりも……!」
「さっきの花火?」
キョトンとソフが問う。
「いえ、その、爆発、です」
「ケイオス派かな?」
「子細はわかりませんが」
「でしょうね」
涼やかにアイスは述べた。
「いや、こちらの不手際です。アイス卿には迷惑を掛けます」
カーリルがそんな言葉を紡いだ。
「…………」
アイスには因果の意図が見えていた。
「ランスロットか?」
「然りですな」
円卓の魔王。
その一翼。
狂奔のランスロットがこの場に降臨した。
正確にはカーリルを代弁者に選んだのだが。
「お前の仕業か?」
「半分ほどは」
「迷惑をって言ってたな」
「です」
特に気後れも無いらしい。
「まぁ結果オーライなんですけど」
あっはっはーとランスロットは笑った。
「で? どゆこと?」
レイヴが尋ねると、
「――――」
とりあえずの成り行きをランスロットは話した。
「はあ」
「さすが魔王」
「だね!」
三人揃って感心する。
言っている内容は吟味に値するが、
「何かね?」
アイスは、
「お前らは人に迷惑を掛けずに存在できんのか?」
尤もな質問。
「アイス卿は知っているはずでしょう?」
「…………」
苦虫を……な顔になるアイス。
「で、どうしろと?」
視線をレイヴに振る。
「無力化してください」
「だろうよ」
「ソフ様も」
「だろうね」
こと今回に限りソフの異能は有効だ。
「がんばってねー」
食事を続けながら気楽にレイヴ。
「滅殺したいですね」
「無理だろ」
「難問です」
理屈自体は簡単なのだが。




