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第24話:忍び寄る影03


 デートも頃合いの時間になった。


 アインとリリィは夕餉の食材を買おうと学院の門前市に顔を出す。


 すると、


「あ」


 とリリィが声を上げた。


「どした?」


 アインが問う。


「教会に寄っていきませんか?」


 見れば視界に教会が映った。


 特に興味も引かれなかったためアインは無視するつもりだったが、


「やはりノース神国の者として唯一神教は」


 とリリィが真っ当な意見を言うので寄ることになった。


 日曜日と云うこともあって教会は人が溢れていた。


 というか、日曜日だからでは無かった。


「なんでも」


 とリリィが風の噂を紡ぐ。


「教会に新しく赴任してきたシスターがすっごい美少女だそうで」


「さいか」


 特にアインの心は揺れ動かない。


「というか美少女目当てに礼拝に来るなんて罰当たりじゃないのか?」


 自分自身を棚に上げてアインは言う。


 元よりアインは神を信仰している。


 それも全知全能の絶対神を……だ。


 ただ一般的な唯一神教とは少しばかり神の捉え方は違うのだが。


 とまれ礼拝である。


 ざわざわと礼拝客がざわめく。


 主に男性。


「あなたに神のご加護がありますように」


 赤い髪と瞳の美少女がカソックを来て礼拝客の一人一人に説教をしていた。


 というか礼拝客が信仰しているのは神ではなく赤髪の美少女だ。


「神に成り代わる不遜じゃの」


 鬼一がケラケラと笑う。


「まぁ彼奴ならなぁ」


 アインも思念で呆れる。


「じゃ、礼拝してこい」


 アインはリリィに手を振って促した。


「アイン様は礼拝為されないので?」


 至極不思議。


 そう表情が語っていた。


 ノース神国は唯一神教の聖地だ。


 そこの指折りの貴族であるアインも当然ながら信仰も厚くあるべきだ。


 ……本来なら。


 が、一度は家を追い出されて虎の巻を習得したアインは神についてこの世界の人間とは少しズレた定義で線を引いている。


 必然礼拝に意義を求めない。


「俺は毎日神様に感謝してるから必要ない」


 心からの嘘を吐き出して教会の長椅子……その一番後ろの端っこに座る。


 鬼一は椅子に立てかけた。


 リリィは神に祈りを捧げるために列に並ぶ。


 鬼一が思念で回線を開く。


「ご苦労じゃの」


 鬼一が言った。


 アインにも聞こえる思念の会話だがアインに向けたモノではない。


「鬼一様におかれましても」


 聞き慣れた意志の声がアインと鬼一に聞こえてくる。


「ていうかお前もよくよく付き合いが良いよな」


 これはアインの皮肉だ。


「まぁ使命です故」


 声はサックリと答える。


「シスターライト」


 と祈りを終えた男性がライトと呼ばれたシスターに声をかける。


「この後夕食をご一緒しませんか?」


「畏れ多いです」


 丁重に断るシスターライト。


「あなた様の気持ちは嬉しいのですが私は神に操を捧げております故、その様な誘いは困ります」


 理論で武装した言い分だった。


 くっくとアインが笑う。


 思念言語で皮肉った。


「大変だなお前も」


 アインと鬼一が思念で会話しているのが何を隠そう最近教会に赴任した美少女シスター……名をライトという。


 というかアインを追いかける形で学院街の教会に入ったのだが。


「そう思うなら助けてください猊下」


「めんどい」


 アインは切って捨てる。


「私より猊下の方が徳が高いのですが……」


「そりゃお前の勘違いだ」


 意図が食い違う。


 ちなみに正しいのはアインの言だ。


 アインは立場こそ立場だが、あくまで教会の秘中の秘。


 しかも教会自身もアインの能力を認めているだけで信仰心まで期待はしていない。


 アインは神の存在を肯定しているが、


「それと教会に仕えるのとは別問題」


 と割り切っている。


 デメリットを封じるため従っているだけだ。


「そうでなければ誰が教会に」


 と思うアインだった。


 ちなみに先の言は思念言語に昇華してはいない。


 一応ライトにも立場はあるので刺激しても有益であることの方が少ないのだ。


 リリィはそんなアインとライトの思念のやりとりを知らずにライトの前で跪いて両手を握り祈る。


「あなたに神のご加護を」


 アインと思念で会話しながらライトは並行してリリィを祝福した。


「よくやるよ」


 アインは尊敬と呆れが半分ずつ混じった思念でツッコむ。


「うむ。ライトは良き信仰者であるな」


 鬼一は心にも無い言葉を吐く。


 元よりアインの唯一神に対する価値観は鬼一からもたらされたものだからだ。


「どの口が……」


 それがアインの本音だった。


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