第239話:幕裏からの狂奔の魔笛16
「致し方ない」
結論はソレだった。
自分自身にかけているリミッター。
その一つを解く。
次の瞬間、
「っ!」
アイスの剣は疾風迅雷と相成った。
攻めていたカーリルが受けに回る。
一閃。
二閃。
三閃。
隙なく能に適う。
四閃。
カーリルの持つ剣が弾かれた。
付け入るべき隙。
刺突が襲う。
「…………」
速度は上々。
狙いは適確。
が、躱された。
アイスの刺突にミスはない。
ただ単純に、
「カーリルの速度が速くなった」
それだけ。
「じゃろうな」
鬼一には想定内だったらしい。
アイスの方は多少混乱している。
こっちの速度に対応されたのは珍種の部類に入る。
鬼一は潜在能力を覚っていたらしいが、さすがにこれはアイスの予想外。
一日の長とも言う。
何処まで行ってもアイスは鬼一の弟子ということだろう。
「――――」
言葉すら置き去りの世界だ。
ぶれるように消える二人。
観客は唖然。
「岡目八目」
とは言うが、その岡目を持ってもアイスとカーリルの異常とも言える剣速には追いつけない。
「――っ!」
打ち下ろし。
逆袈裟で受けられる。
そのまま叩き潰そうとするアイス。
しなやかに流された。
剣筋の変化。
今度はアイスがカーリルの剣を受け止める。
「人間ですか貴方は」
鍔迫り合いの最中でやっとこさカーリルはアイスに問うた。
「こっちの台詞だなぁ」
まこともって。
非常識に片足ツッコんでいるのは両者共にだ。
そしてまた剣が閃く。
キィンと一度の音。
計四閃の斬撃。
すれ違いながら剣を振るう。
間が空いた。
「ふ……」
吐息。
ここまで剣の打ち合いに緊張感を覚えるのも珍しい。
「世界は広いな」
「無論じゃて」
思念で会話。
アイス……アインも一種極めてはいるが、
「それにしても」
とはむしろ賞賛。
辻斬り。
カーリルの剣は確かに高い位置にある。
「どうする?」
「零抜」
「なるほどの」
京八流の奥義の一つだ。
別名斬鉄剣。
アイスは腰に差した鞘に鬼一をしまうと、背中に回して柄を逆手に持つ。
「っ?」
困惑するカーリルだった。
その姿勢から何が起きるのか?
「はったりか?」
とは思うが、そんな疑念はむしろ余計だ。
「何はともあれ」
片手剣を両手で握る。
把握。
剣身一体。
「ほう」
その剣勢の型にはアイスですら感嘆とする。
機能美の極致だ。
カーリルにとってのアイスがそうである様に。
「いざ!」
そしてアイスが間合いを踏みつぶす。
逆手に握った鬼一の柄を腰の回転で抜刀する。
神域の抜刀術。
それも回転の容量が溜抜の倍だ。
威力もソレだけ出る。
一撃を受け止めただけでもカーリルの剣の腕は喝采に値する。
問題はそこで零抜が終わらないことだ。
逆手に握った抜刀術がカーリルの剣に打たれると、そこから回転の加わった肘が和刀の背を打って再度加速する。
「っ」
結果、
「斬鉄剣」
の名にふさわしくアイスの剣はカーリルの剣を切り裂いた。
決着だ。




