第238話:幕裏からの狂奔の魔笛15
決勝。
勝ち上がってきたのはアイスとカーリル。
カーリル。
女性だ。
燈色の髪と瞳。
手に持った片手剣。
その剣をアイスは知っている。
当然その構えも。
「あらら」
まさかと思いつつ、否定要素もない。
辻斬りと同じ剣の使い手。
というよりそのご本人なのだろう。
カーリルは。
覆面越しの燈色の瞳は印象的だったため覚えているし、そうでなくとも剣に精通しているアイスには重心の置き方だけで大抵の剣の理は看破出来る。
「辻斬りさん」
「ええ、アイス卿」
条件は相手方も同じらしい。
アイスとアインをイコールで結んでいる。
さすがに吹聴する気は無いらしいが、
「レイヴ様々じゃの」
鬼一が事象を代弁した。
「並みじゃないのは分かってたけど」
驚愕の一つもする。
「決勝まで勝ち上がってくるとはね……」
色々と有り得ない。
観客にしてみれば、
「お前が言うな」
に相当するだろう。
武闘会も大詰め。
決勝戦はアインとカーリル。
どちらも剣を頼りにする逸れ物だ。
「結局他人事なんだよね」
「きさんがソレを言うか」
鬼一のツッコミも厳しい。
「で、どうするかね」
アイスは少し考える。
実のところ珍しくアイスは辻斬り……カーリルに畏怖していた。
その剣技の冴えは鬼一も認めるほどだ。
傷を付けられる気は毛頭無いが、
「それにしても」
といったところ。
「さて」
スラリと剣を抜く。
木刀は邪魔なので隅っこに置いておく。
鬼一法眼。
和刀を構える。
「…………」
それだけでカーリルの瞳は興味深げにたゆたう。
どちらともに最強の敵と認識する。
狂乱と狂奔の中、
「――――」
試合開始の鐘の音が鳴った。
同時に間合いを遠くしていた二人が蜃気楼のように消える。
残像だ。
観客が捉えたのはコロシアム中央で鍔迫り合いをしているアインとカーリル。
白と燈の髪が剣気で揺れる。
金属が打ち鳴らされる。
片手剣と和刀が瞬間で三度振るわれた。
観客には一度の剣筋しか見えていないが。
「さすが」
「某の台詞であります」
侮るという言葉と縁がない
アイス……という立場では良くあるが、さすがに目の前の剣鬼には油断の付け入る隙も無い。
「しっ」
「ふっ」
更に金属音。
もはや観客置いてけぼりで神速の剣術が互いに犯し合う。
「なんだかなぁ」
思念で愚痴るアイス。
「貴重な体験じゃ」
鬼一はそう返した。
「そーだけどー」
労災も下りない。
それが不満だ。
刺突。
刺突で返す。
競り合い。
クンと剣筋が逸れる。
神速で襲ってくるカーリルの剣。
その全てを切り払う。
「よくやるよ」
「やはりあなた様が一番ですね」
「畏れ入ります」
「剣聖枢機卿……」
「それは黙ってて」
「ええ」
コロコロとカーリルは笑った。
「とても辻斬りと同一視出来ないね」
とはアイスの言葉。
「じゃの」
思念で同意する鬼一。
縦横無尽にカーリルの剣が襲う。
一応今のところはやられっぱなしのアイスであった。
「さてどうする?」
「拘束を一つ解いてみやれ」
「いーのかなー?」
あまり判断に自信の無いアイス。
が、拮抗状態を破る意味では益する物だ。




