第237話:幕裏からの狂奔の魔笛14
「狂奔のランスロット?」
その存在を知らないわけではない。
ことレイヴに限っては。
その上でアイスの背景を知り、ケイオス派を送り込むともなれば、
「事情を知り」
かつ、
「敵対的」
であるしかない。
狂奔のランスロット。
円卓の魔王の一角。
悉くアインに煮え湯を飲まされた御仁が筆頭候補だ。
「それでケイオス派が……」
そこで予定から実行までのタイムラグに矛盾が生じる。
アインを狙う。
アイスを狙う。
同じ事のように見えて、これらは完全に乖離している。
その結果を算出したところで得た結論は、
「ブルーブル派の人間がランスロットに取り込まれた」
そんなものだった。
師弟揃って。
「その上で」
鬼一。
「ブルーブルは武闘会に出資しているか?」
「それはまぁ」
事実だ。
元より国家共有魔術学院そのものに出資しているのだ。
同学院の武闘会にもスポンサーとは名を連ねているだろう。
「責任者は?」
「えーと……」
しばし考えて、
「確認を急がせます」
お役所仕事は腰が重い。
「可及的速やかにな」
「留意しましょう」
そしてアイスはチョコレートを飲む。
苦みが口いっぱいに広がった。
心地よい。
レイヴ辺りは、
「趣味が悪い」
というが。
もともと生のチョコは薬用だ。
「口に苦しも当然だ」
アイスは言う。
審問官がレイヴから指示を受けて右往左往。
言ってしまえば、
「意味がない」
がアイスの皮肉だが、
「教皇猊下の護衛」
は審問官の仕事だ。
「大変だねぇ」
当の本人ですら他人事だ。
南無。
「これでやっと決勝だね」
「あまり名誉欲は無いんだけど」
「出世欲は?」
「ないね」
「一応命の恩人ではあるんだけど……」
「結果論を語ればな」
他に言い様もない。
元々、
「魔術学院には興味もない」
がアイス……アインのスタンスだった。
当然、
「貴族の血? ソレが何か?」
に終結する。
その特異性にレゾンデートルを見出した点については鬼一の功績で、貴族すら低頭する枢機卿となったのはレイヴの罪悪だ。
言ってしまえばランスロット以上にレイヴが脅威と言えないこともない。
アイスは口に出さないが。
「決勝ね」
とりあえず情報の出所を探るためも時間は必要だ。
であれば武闘会に意識を割くのも一縷の有益さではあろう。
「優勝したらまた面倒くさいことになりそうだが」
苦々しい表情はチョコレートのせいではない。
「今になってソレを言う?」
「ご尤も」
チョンチョンとこめかみを指先で叩く。
頭の頭痛が痛いのも宜なるかな。
「決勝の相手は剣士ですよ」
「はあ……」
敵を知らずとも脅威でないため、
「凄いんだろ~な~」
としか吐きようもない。
「勝つよね?」
「場合による」
勝ってみせる。
そんな約束もしないアイスではあったが。
基本的に不遜で不満たらたら。
事情を知る人間に言わせれば、
「誰が勝てる?」
と述べざるを得ない。
「とりあえずスポンサーの裏取りは任せましたよ」
「承り候」
紅茶を飲んでレイヴははにかんだ。
「何時もそうしてれば良いのに」
とは心中での言葉。
儚い希望。
あるいは精神的労災欲求だろうか。




